Aカテゴリー(デジタル・エクスペリエンス)
栗林 : 僕は、シンプルにクオリティーがものすごく高いなと思って。これまでにも、いろいろなアングルで体験できるオンライン上のライブ体験みたいなのはあったけど、それをものすごく進化させていて、縦も横も奥も、体の中まで自由に入っていけるみたいな体験がすごく新しいし、何よりアートディレクションがものすごく際立っているなと思いました。
石下 : これはすごく気になったのを覚えています。結構長尺なのですが、サイトも見に行きました。単純に技術とか以上に体験としてユニークで、没入感が凄く丁寧に作られていると思います。ビョークのVRを思い出しました。VRだと人の体の中に入りたくなっちゃうという、プリミティブな気持ちをすごく突いていたり、いろいろな視点で見たくなる、ぐるぐる動かしたくなるっていう、そういう本能的な行動を創出していました。
あと、自分だけではなくて、いろいろな人の視点が魂みたいになっている、ちょっと宗教的というか、不気味さもむしろすごくぐっときて、入り込んでしまいました。
大八木 : ブランデッド・コミュニケーションとしては、デジタル・エクスペリエンスのクラフトですよね。ライブという概念をデータだとかテクノロジーで全部解析して、それを解体して、もう一度つくり直して、それをやることによって新しい視座をユーザーに与えるというのは、非常に野心的だし、こういうアーティスト性の高い仕事というのがちゃんとここから生まれていることは誇りに思えました。
この部門は、今までは効果がどうとか、理由がどうという話もありながらも、純粋にテクノロジーとしてすごいコミュニケーション技法をつくっていることも大切なポイントだと思いました。
イム : 僕、これは非常に高い点数を付けていまして、何人かの方がおっしゃっているように、このコンテンツは没入感を非常にうまくつくり出せていましたね。それで何かというと、さっき現場の映像を見ていただいたら分かるように、8台のカメラとか、いろいろなスタッフが周りを囲んで、いろいろな素材を撮っていて、フォトグラメトリーって、1500枚あるって、これは確か、マイクロソフトが開発したのかな。結構前に、ユーザーが撮った写真を自動的に配置して、360度を見渡せるような、自分が行っていない場所に観光客が撮った写真を全部マッピングして見られるような、ざっくりいうとそういう技術みたいなものなのです。それをうまく使って、素材を最大限に効果的に使う。再合成してうまく使っているからこそ、没入感みたいなものができていたのですね。
そういう意味でいうと、すごくアーティストの特性みたいな、神秘的な雰囲気を含めて、すごく上手に表現ができていて。あと、仕立てが非常に洗練されていて素晴らしいと思いました。
菅野 : やっぱりウェブサイトというのはブランドを体現する一番のホームというか。ウェブサイトというのが、技術というのが、ちゃんとクラフト力を持ってしっかりブランドのメッセージだったり、在り方みたいなことを背負ってメッセージングすることは、すごく重要なことで。
デジタル・エクスペリエンスというのを、ウェブサイトでしっかりブランドを発信していて、それがすごくみんなを圧倒するクオリティーのメッセージを持っているものが込められるといいなと思いました。
橋田 : ソーシャルができてから、SNSという出店で企業情報に接させようという人たちが多くなりました。でも、これは久しぶりに本店のウェブサイトでのブランド体験。ステートメントを説明されているのでなくて、見ているだけでブランドが体験できるみたいなところがとてもよい。もう1回ウェブサイトに目を向けなくてはと思わせてくれましたね。
菅野 : 今回、(カテゴリーに)ソーシャル・インフルーエンスができたじゃないですか。すごくそれが動的なというか、お出かけというか、めくるめく、動くコミュニケーションの世界を扱う、比較的スタティックというか、ホームとしてのホームページという言い方もありますけど、ウェブサイトというのが、やはりブランドにとってはたたずまいとしてものすごく問われる時期なのかなと思いました。
小島 : 僕もこれ、めちゃくちゃ最高だなと思って。特に2つあって。一つは、「山内家なんやねん?」って知らない人もままいるのだけど、任天堂のって勝手に説明し出す人がめちゃめちゃソーシャル上に現れたし、任天堂のわくわく感というか、まだ何も伝えてない、まだ何をやるのか、みたいなものがあまりないんですけど、わくわくするってとこ。
あとは任天堂のアセットを使って、マリオとかそういうのはいないのだけど、任天堂らしさが担保されているってところがすごくわくわくしました。
栗林 : 感覚論の話ですけど、僕は死ぬほどソーシャルメディアというものに向き合っているのでつくづく感じるのが、100万人に再生されるよりも、1万人に濃い体験をしてもらったほうが価値を感じるときがすごく多くなってきているなということです。
そういう意味で、このサイトに触れたときに、今、みんなが言っていることですけど、任天堂魂がちゃんと拡張して、ここまで凝縮した体験にすると、ものすごい人の心が動くのだなって。僕はこれを見たときに背筋が正されたなと思ったので、この賞として、見本として、見せたいなって気持ちがめちゃくちゃありました。
関戸 : ありそうであまりなかったなと思っていて、1周年でより愛着を持って電車に乗ってほしいという気持ちと、ミュージックビデオのつくり方がすごく合っていて、個人的に好きでした。
南 : 私も、電車から見る景色と音楽というのは、すごく独特のエモさというかがあっていいなと思ったのと、これはコロナで電車にも乗れないし、というほどの、そういう移動の飢餓感と直接結びつけるのは結びつけすぎかもしれないですけど、そういうところも時事性があっていいなと思いました。
イム : これは個人的にはすごくいいプロジェクトだと思っていまして、Twitterで歌詞を募集して、最終的にいろいろなアーティストが曲にしつつ、特定の駅間のものでは、イラストレーションをアニメーションにしたものと合成したような、非常にクオリティーが高いです。かつ、Twitterで募集したものというのがどこまで、その後もワークしているのかなと思って見たら、割と移動中に聞いていた方も結構いらっしゃったみたいで。Twitterで「この駅間はこの歌詞がすごくマッチしていて良い」とか、割とワークしているようなイメージでした。
太田 : 単純に体験としてすごく気持ちいいなと思っていて。電車の車窓と音楽ってもともと相性がいいところに、各駅間の秒数に合わせてます、みたいなこととか、イラストも単純にクラフトとしてかわいいし、気持ちのいいデジタル体験だと思いました。
尾上 : このサイトは結構いいなと思うのですよね。動画なのですけど、丸くちゃんと、電車の丸形にくり抜かれていて。ただ、すぐにタップして飛べるようになっていないっていう、その感覚が結構電車で見る感じと何か近いなと思ったりはして。ただ、僕は弥生台駅が地元だったのですけど、それで乗っても感覚的にそんなに来なかったなという。思い出とあまりリンクしなくて、歌詞の踏み込みがちょっと弱い。デジタル・エクスペリエンスと関係なくなっちゃっている気もするけど。
嶋野 : 実際の応募数を見ると、それだけで各駅の歌詞をつくるのはなかなかきつかっただろうなと思います。
イム : でも、結構、歌詞を出すって障壁高そうなイメージがありますけどね。そういった意味でいうと、どこまでリアルなものなのか分からないですけれど、リアルボイスを集めて、最終的に仕上げまで持っていっていることは、個人的にはすごく評価できる。でも、このカテゴリーなのか。B(プロモーション/アクティベーション)とかD(ソーシャル・インフルーエンス)なのかって、そういうことを考えちゃいました。
小島 : あまり、サイトモリモリ全盛期にユーザーとして体験しなかったこともあって、今、こういうふうにサイトだけで面白く、結構気持ちいいなって直感的に思えるものっていうのはすごく新鮮。
関戸 : 私はこのサイトがかなり好きで。2029年っていう割と先のビジョンを伝えるときに、POLAって私からするともう少し、40歳、50歳くらいの人が使う化粧品というイメージがあって、リンクルショットとかがすごいヒット作だと思うのですけど、それをいつ使うのか、使い始めようかなみたいなことを思っているときに、割とホームページを見ると、やっぱり昔ながらというか、自分のものではないような顔付きになっている中で、未来に自分が使ってもいいようなブランドなのだなというのが、トンマナで分かったのと、個人的にはこのMACCIUさんのイラストと、この動きと、文字のバランスがすごく美しくアートディレクションされているし、やっぱりこのスクロールする気持ち良さが、スムーズな感じがすごくコンセプトとも合っているなと思いました。
菅野 : POLAって、僕はアートの会社だと思っています。アートの会社がアートとして美を捉えたときに、未来を語る。そのときにやっぱりアーティストに頼みたいと思うと思うのだけど、その気持ちに対して広告界のクラフトマンシップで、アートで応えたというところがすごくて。
そういった意味でまさにブランデッド・コミュニケーションの中心にあるし、やっぱり例えば遠い昔に環境の事業報告書なんかは紫外線に当てると読めるとかなんか、忘れたけど、それ的なものと比するぐらい、POLAっていう会社そのものの美意識を表しているから、これはいいと思ったりしますよね。
細田 : 今、「デジタルでブランドはつくれるのだろうか」って、大切な問いですよね。ブランドをつくるというと、つい「テレビか新聞か」と考えてしまいがちですが「いや、デジタルでブランドつくれるよ」ってことをあらためて示してくれた。
新聞がどっちかというとデジタルに近づいて拡散力を示そうとする一方、真摯にブランドを伝えて、深いところでお客さんと握手できるのがウェブサイトになるかもしれないと。どなたかが「ホームページじゃなくてホームグラウンド」って言っていましたけど、とても象徴的な考え方だと思います。企業のサイトは、ブランドを体現するホームグラウンドになっていく。
石下 : 皆さんの話を聞いて、ブランドサイトはブランドブックでもあるのだなとハッとしました。それこそある一時期、サイト体験としての新しさや操作性の気持ちよさとかを経験していた世代というのもあり、この作品を見逃してしまっていました。あらためて、ホームページこそがブランドをちゃんと体現する場だというのを投げかけていただいて、この一次審査をしたときの自分を叱りつけたいなと思いました。
尾上 : 僕は、これはもう、素晴らしいなと。レイヤーが一つ上っていうか、もう、インフラつくっちゃっているという感じで。地球ARとかすごいなと思っているのですけど、この仕組みをつくっちゃった後に、ワンピースやっていたりとか、ずっといろいろやっていますよね。その継続性といい、この規模でインフラつくっているのをこういうデジタルカテゴリーで出てくるのも含めて、これはすごい仕事だなと思っています。
菅野 : 技術的には本当にすごいというか、つないでいるという時点で結構勝っているのかなと思ったのですけど、コンテンツは結構普通のことを言っているなと思ってしまいました。宇宙からこんまりさんと電話で会話しましたみたいな感じでいうと、技術的に宇宙とつながっているというプラットフォームをつくったことはすごく評価するけど、もっと企画とかクリエイティブとかアートディレクションができるのじゃないかなと思って、もったいないなと思っちゃったというか。
イム : これはバスキュールさんですよね。私はバスキュールさんの企画は昔からずっと見ているから、宇宙というものを、もはやあまり遠く感じないんですよね。放送できるというのはもう前提だと思っていて。あるいは交信ができるのは前提だと思っていてもっとやれるのではないかと思ってしまった。
大八木 : 大きな潮流として、クリエーションに関わる人間として私たちがたぶん向かうべき一つの方向が、実際にIPという形で、こういう何か事業創造のようなコミュニケーションをつくって、そこにクライアントさんに入っていただく。そういうことで、実際にやりたいロマンとか夢とか、そういうものをドライブしていくというのはすごく大事な気がしています。
「コカ・コーラでカウントダウンって普通じゃん」みたいな話はあるかなと思いつつも、一方で、例えばコカ・コーラはずっと、渋谷の交差点とかでカウントダウンをやっていたのだけど、去年はやれなくなった。そういうところのアティチュードとかはすごく攻めているし、このチャレンジはデジタル・エクスペリエンスでいうと破天荒というか、すさまじいスケールだなって思いました。
石下 : 私も宇宙にはよく絡んでいるので、これだけは言いたいです。絵としては、たぶん、もう見慣れたり、交信とかも当然のようにできると思っているかもしれないんですけど、技術的にすごいことで、実際にやろうとするとものすごいお金がかかる。だから、なかなか普通の企業のプロモーション費用ではできない。それをバスキュールさんが本腰を入れて、ちゃんとプロダクトというかサービスをつくりながら、バスキュールさんの広告になっていることがブランデッドだし、新しい可能性もあるなと思いました。
これを機に、いろいろな代理店や企業の人が、あのフレームを使ってどんどんもり立てていったらもっと面白くなるだろうなと思うので、ちょっと期待を込めながら。
三浦 : いいですよね(笑)。やっぱりamazarashiの世界観がアートディレクションとテクノロジーによってここまで解像度高く表現されていると、やっぱり拍手を送らざるを得ないと感じました。
細川 : 私もデジタル・エクスペリエンス、みんなが参加しながら、その参加の仕方をこういうふうにアーティストに合う世界観で見せていて、コロナのときの鬱屈とした感じを浄化するというか、ライブに対するストーリーのつくり方も面白いなと思いました。
菅野 : 正直、SNSで投稿されたメッセージが入ってくるとかはもう、この7、8年、ずっとあるし、コロナ禍ではやり切っちゃったと思うんですよね。だから、amazarashiはやっぱり技というよりはストーリーテリングとアートディレクションだなと思ってて、そこの部分に絞って、僕はすごくいいなと思いました。世界観がいいですよね。
三浦 : まさにこのタイミングのオンラインライブって、無理に明るくするとか、無理して陽の空気をつくろうとしていたところに、「今はしんどいんですよ。みんなやるせないんですよ」ということを受容したライブになっていたことが、実は素晴らしいのではないかと思っていて。共に悩む、共に苦しむマイナスの共感みたいなことの社会的空気をものすごく捉えて、それをコンテンツ化しているというところが、単なるamazarashiのブランデッドということであると同時に、その時代のソーシャルコンテンツとしてもレベルが高いなと思ったのです。
太田 : デジタルに頼れるけど、全部のツイートを逆に灯籠? あんどん? みたいなものに、すごくアナログにやり込むとか、リアルな大仏なのだけど、そこにプロジェクションを打つみたいな、何でしょう、逆にいえばすごくミニマムだけどクラフトワークが効いているオンラインライブの最高峰だなと思いました。
嶋野 : これは皆さんに聞いてみたいことなのですけど、仏像にプロジェクション・マッピングするのって、どうしても気になっちゃって。霊園でいろいろな人のお墓があって、祈る場所で、自分の親戚とか家族のお墓があったときに、知らぬ間にここでガスマスク付けたり何かやられているのを見たらどう思うのかなって。倫理観というとあれなのですが。
大八木 : 大仏ってもともとは疫病とか、多くの方が亡くなった時に、それを治めるためにみんなでつくったんですよね。奈良時代とか。この頭大仏は、そもそもあったものに安藤忠雄さんが、かぽっとドームをかぶせて。だから、そういった文脈でいうと、祈りという文脈では冒涜はしていないのかなと、俺の生まれは寺ですけど、思ったりしました。
村上 : IPとか漫画とかをお好きな方が、実はそれに嫌われるようなことをやっているというところを、そういうのが好きな人をくすぐるようなやり方で、押し付けがましくなく、楽しく気付かせてくれるというところが素晴らしいし、これだけのたくさんのIPがちゃんと絡んでやってくれているというのも良いと思いました。
嶋野 : 設計含めてのものなので、個人的には仕組みはもちろん素晴らしいのですけど、やっぱり言うだけでは止まらないという点をどうしても思ってしまって。優秀なメディアプランというところでの加点と、実際に止める強さがもっとあってもよかったのかなっていう、表現としてのパワーとのバランスかなと思っていました。
尾上 : 仕組みは僕もいいなと思いつつ、たぶんそんなに止まらないだろうなという。あと、この漫画のキャラの選び方とせりふとかが、ちょっと面白くしちゃっているじゃないですか。カイジを使って。そうすると、そのノリって、注意とか、「本当にやめて」じゃなくて、「楽しいのでいいんだ、バナー見たいからサイト行こう」みたいなやつも結構発生しているんじゃないかなとかも思っちゃったりして。もっとたしなめる表現がまだあるのじゃないかなって思いました。
細川 : 私は、このユーザー側の動線をよく考えていて、タイミングとかは素晴らしいなと思いつつ、「君を犯罪者にしたくない」という言葉が、優しい感じで、でも、警告しているとか、その言葉がいいなと思いました。
菅野 : 最近のデジタル広告の仕事って、ほとんどストーキングじゃないですか。その人の行動を見て、夜道で、「あなたは今日、どこで買い物したか知っていますよ」みたいな感じで1人だけ襲いに来るみたいなものの売り付け方をする感じになっているのが嫌だなと思って。ストーカーを逆手にとって、海賊版を読もうとしている人をたしなめに行くということをしているのが、こういう伝え方はいいなって思いました。
菅野 : 僕は、デジタル・エクスペリエンスとしては全然評価できないかな。画像なので。Instagramのフィルターで発見できるレベルのサイドの話だと思うのですけど、デジタル・エクスペリエンスと捉えたときは、そんなに。やっぱりこれは言いたくなるとか、そういう欲望のつつき方に近くて、技ありという感じというよりは、やっぱりソーシャル・インフルーエンスのほうに僕はぐっと来ていていました。
栗林 : 僕は逆のパターンで、デジタル・エクスペリエンスって、高度なデジタルというよりも、普遍的なデジタルの機能をうまく使って、ブランド体験に昇華させたのが、ものすごく企画屋の執念を感じるなと思っていて。誰もこの機能をうまく使ったことがなかったので、そこは評価したいなと思いました。
細田 : 確かに最先端のエクスペリエンスということではないかもしれません。けれどいまの時代のオーディエンスとの優れた「会話」方法ではあるな、と。米津さん独特の、ちょっと上から目線なのとか、ちょっと高飛車なファンコミュニケーションをしていると捉えたら面白いかなと思いました。
イム : これ、僕は全体的にすごい好きで、いい点数を入れていたのですけど、審査を三つ、Bカテゴリー(プロモーション/アクティベーション)とDカテゴリー(ソーシャル・インフルーエンス)とAカテゴリー(デジタル・エクスペリエンス)って経て考えると、きっかけづくりみたいな意味ですごい成功していて、むしろ僕はアナログっぽく感じていて、何かといったら油紙みたいな。火をあぶると文字が出てくるみたいな感覚があるじゃないですか。
村山 : (前年の企画である)ストレイシープが、企画側からすると鮮やかだったというお話はきっとあると思うんですけど、リアリティーとして、これくらいがファンに届くということをチューニングした結果なのかなという気もしています。難しくて先鋭化していきさえすればいいのかとなると、それは米津玄師さんみたいな、今や国民的歌手みたいな人のやり口として、先がないのかなと思うと、これくらいにチューニングしたクラフトは素敵かなと思いました。
ハッシュタグで見てみたら、2020年にはなかったInstagramの機能として、投稿に音楽が載せられるものが加わって、そこが新しい主張の場所になっているというのもエクスペリエンスとして面白いのかなと思いました。
大八木 : 1つだけ、デジタル・エクスペリエンスの視点として僕がいいなと思っていたのは、100パーセントみんなが使っているツールで解読できるものでエクスペリエンスというか謎解きをしかけたところが結構普遍的だなと思っていて。僕はソーシャル・インフルーエンスというよりはむしろデジタル・エクスペリエンスのほうがしっくり来る派です。
橋田 : このキャンペーンはどちらの側面も持っていますね。みんなが使えるプラットフォームの中で、すごくシンプルな、反転させるという一発のデジタル・エクスペリエンスで米津さんのブランドを感じさせたポイントだと、デジタル・エクスペリエンスといえる。それよりもシンプルだからこそ自分も体験できて広がりを起こしたい気持ちになれるというシェアラビリティを評価するのだったらソーシャル・インフルーエンスというところで評価できるというポイントがあったと思います。
橋田 : 皆さんと議論しておきたかったのは、これは、デジタル・エクスペリエンスなのか、ということ。プラットフォームはYouTubeというデジタルなのですけれども、「THE FIRST TAKE」という企画、そしてアートディレクションの全てが、映像フォーマット。これを、デジタルエクスペリエンスとして評価できるのでしょうか、というポイントも含めてお話しいただきました。
太田 : やっぱりデジタル、イコールいろいろ加工できちゃう、編集できちゃう、みたいなことが何となく前提としてあるときに、「フィルターのないライブ」といった、いくらでも加工できそうなものなのにっていう、そこの逆説的なところが、体験としてすごく良かったというふうに思いました。
三浦 : これはユーザー・エクスペリエンスであると同時にアーティストにとってのエクスペリエンスをつくっているのが面白いと思ったのです。こっちの一発撮りという、特殊な空間における一発撮りがいいのかということが、結構発明だなと思っていて。それによってアーティストにいつも以上の奇跡を訪れさせる仕掛けをつくっているのがめちゃくちゃ面白くて。ユーザーにとっての新しい体験を引き出すためのアーティスト体験の設計という意味でいうと、これは何か、エクスペリエンスという言葉を冠したこの部門にふさわしい仕組みなんじゃないかと僕は思いました。
菅野 : コロナみたいなことももちろんあると思うんですけど、身体性というか、人間らしいことに対しての希求というか、感じたいという気持ちがたぶんあって、ライブで目の前に人間がいて唾飛ばして歌っているということは間違いなく身体性そのものなのですけど、それが今なかなか求められない中でいうと、どうやってその人らしさみたいなことを感じるのかということの、一つの答えなんじゃないかなと思ったのですね。コロナのときに何度も撮り直せているのではなくて、1回しかできないことに対する人間の向き合い方ということに、みんな感動するのだなと思った。
細川 : 質問があって、YouTubeじゃなきゃ、その今のやつは出ないのかしら。YouTubeであることが大事なのですかね。さっき言っていたことと近い疑問かもしれないですけど、テレビ番組じゃ駄目だと。
菅野 : 1回しか起こらない奇跡が何度も見られるすばらしさと、1回しか起こらないことというのは共存し得るのだということ。私もこの分野で悩みすぎた結果、「ああ、そういう見方があったのだ」といって感動したということなのです。
大八木 : 例えば私、Def Techを見たときに、すごい感動してちょっと泣いたんですよね。普通あんまりYouTube動画で泣いたりしないんだけど。「すごいな、この人」という人もいれば、そうじゃない人もいるのも含めて、さっきの一回性を永遠にためておけるプラットフォームとしてのYouTubeのありようという中では、ものすごくうまい使い方をしたのじゃないのかなという話と、あと、やはりサジェストが出るから、セレンディピティというか、出会えるというところから、ある意味このフォーマットというクオリティが担保された中で出会いを提供してくれるという意味においての、新しいエクスペリエンスというのはあるなと思った。
菅野 : 私は自分の仕事で生中継にこだわっていたけど、FIRST TAKEという言葉で全部それがルールというか、みんなの予見になったというのがすごいなと思ったんですよ。生中継しないとそれできないじゃんとずっと言っていたのに、FIRST TAKEって一言で、みんなの中でFIRST TAKEになっちゃったから、「何だよ、おい、俺頑張って8年ぐらいずっと生中継してたよ」みたいな気持ちになったわけですよね。
栗林 : 僕はデジタル・エクスペリエンスとソーシャル・インフルーエンスの大きな違いは、深さを取っていくものと広さを取っていくものの設計力の違いだと思います。このTHE FIRST TAKEは深さを取っていくときに、ものすごい工夫が二つあるなと思いました。
一つが表現上の工夫で、とにかく没入感を深めるために、手癖や、つい髪を触っちゃうとか、息遣いとか、緊張感があるとかも、耳元で再現するためのマイク環境にしたりとか、そういう臨場感を味合わせるための工夫をめちゃくちゃしているから、これだけ見ちゃうものになるなと。それが深さをつくるデザインになっているなというのが一つ。
もう一つは、THE FIRST TAKEは何度も何度もコンテンツを体験して、どんどんこの世界に入っていく、そういう深さのデザインがあるなと思っていて、サムネイルの真ん中にラインを入れるデザインや、同一空間っていう共通フレームだとか、そういうものの中からみんながすごく見やすくてどんどんはまっていっちゃうみたいな、回遊デザインがすごく優れているなと思ったんで、そういう意味でデジタル・エクスペリエンスの評価がものすごく高いなっていうふうに捉えました。
Bカテゴリー(プロモーション/アクティベーション)
村山 : 大きな予算で押してくるタイプのデジタルトランスフォーメーションに比べて、これはもともと本当にリアルで、フリマさながらにやっていたセールのデジタルトランスフォーメーション版です。
結構デジタル化っていろいろやられていますけれども、そのまんま、ただの変換のものと、何なら劣化、コピーのものがたくさんある中で、これは一番ジャンプがすごい。たぶんお金がそんなにかかっていないのだけれども、クラフトによってものすごくいいものに変換されている。そして、一般人に対しても、都営交通って素敵だなと思わせるものになっている。そんなに派手なものではないと思うのですけど、注目されて欲しいと思いました。
大八木 : 僕は古美術が好きなので、そういう流れでいうと見立ての妙というのがあって。ほかの人にとっては捨てられてしまうようなものも、見立てによってはものすごくきれいな花いけになったりとか。そういう見立ての妙という視点で見ると、こういう形でクラフトを施すことによって、一つ可能性を感じるなと。そんな気持ちでいました。
細田 : 重ねます。コマースサイトでブランディングができるのだという発見がありました。普通ならブランディングしてコマースするということだと思うのですが、これはECサイトが、都営の「大切に使われてきたものは、美しい。」というブランドメッセージを伝える場にもなっています。自分たちの備品にすごく誇りを持って、細かいところまで見ているという感じが、売ることによって初めて伝わる設計になっている。だからECサイトのふりをしているけど実はすごいブランディングサイトなのだ、と思いました。
関戸 : もちろん今回のこのサイトもクラフト的にも素晴らしいなと思うのですけど、個人的には結構、五、六年ぐらい前から自社のというか自分たちの列車の延長線、沿線上の媒体で、割とオールドスタイルの王道のクラフトでずっとポスターを出してきた。そのトンマナをちゃんと生かしながら、今回のコロナ禍を利用して、そのブランドの蓄積される表現の延長線上で、こういうアプローチをしている。すごくローカルでマニアックな商品を使ってそういうことをしているのは、すごくよいなと思いました。今回のブランデッド・コミュニケーション部門にすごくふさわしいものなのかなと思って見ていました。
太田 : 最後に、細田さんの、なるほどブランディングなのだと思って、すごいいろいろ私も腑に落ちて。最近撮り鉄問題とかもひどいから、電車好きの人ってマナーが悪い人みたいになっている中で、大江戸線沿線に住んでいる人はとても素敵な人であるという感じにも見えてきたり。そういうことも確かにいろいろ波及効果があるなと思って、いいなと思いました。
細田 : 透明なボトルの手前と奥を生かして立体的なビジュアルをつくりだす。日本だけでなくて世界中で確立された手法ですね。
橋田 : コカ・コーラの『飲んだら見える』みたいな商品とか、以前にブランデッド・コミュニケーションで受賞した『君の名は』の新聞広告で透かすと一緒になるみたいなこととか、ちょっとアイデアが似ているところはあるかもしれません。
栗林 : 僕は逆に、結構やられてきた手法なのに、まだここまでのパンチ力があるのだという、そこの体験価値の発掘がすごいなと思っています。『君の名は』とかって、新聞広告で体験させたと思うのですけれども、商品ど真ん中の、飲むという体験でこの絵が見えてくる。それもめちゃくちゃカルピスに近い世界観でここまでシズルが出せるのだという、その発掘力はすごい。本当に爆バズったという感覚があって、ちゃんとこれを見て買うきっかけになるなという感じはあって。何か青春時代ならではのはかない感じ、エモさというものを、透けるという体験とイラストでガッチャンコしてうまく表現したなというのがあって、そのクラフト力もしっかり評価したほうがいいなと思いました。
小島 : 高校生がターゲットなのですという仕事がなぜかまあまああって、そのときに「テレビは見ないよ」となったときに、高校生に見せるだけで結構むずかしくて。最近Tik Tokが出てきて、Tik Tokに何カ所か仕事があるのですけど、そのときにブランドの言いたいこととかブランドのシズルを極力抽出して、デジタルのお作法に合わせることでやらないと無視されちゃいますよというプレゼンにならざるを得ないじゃないですか。コンテンツに寄せていくというか。
となる中で、商品ど真ん中、飲む、しかもその商品自体が爆バズるって、理想過ぎて悔しくて仕方なかったです。このタイムラインが流れてきたときにクソっとすぐ思いましたし、イメージとしても本当に高校生の顔とか見ても分かるし。自分もそうですけど、なぜか高校生って、飲み終わったボトルをずっと持って歩いたりするじゃないですか。
太田 : 私も基本的にはポジティブで、手法自体は新しくないとも思うのですけど、エントリー資料のスクリプトにも書いてあるみたいに、コロナ禍の高校生の青春に対する渇望感ってすごかったのだろうなと思って。飲むことで取り戻せないけど、これを飲んで部活の仲間とかに、離れていても一緒だよとまではストレートに言わないにしても、会えていない友達とか部活仲間との心のつながりを確認し合うとか、すごく容易に想像できて、手法の新しさというよりも、そういう突き詰めた、時代に合わせた形でクラフトを結実できているのではないかなと解釈いたしました。
関戸 : 割と昔ながらの手法のジャックだと思うのですけれども、タイミングというか、受験シズルを抽出するのがすごくうまいなと思っていて、それに結果が結構伴っているので、私は評価しました。この施策、番宣webとかラジオCMとか、その下の画像というか、OOHの下でいろいろ施策もやられているのですけれども、それ以前にこのOOHとしてちゃんと狙いを持っていて、すごく好感を持ちました。
東畑 : 渋谷というギャラリーを使った墾田永年私財法のデザインを含めて、すごく広告1.0的に目立っていたなということで、結構存在感を持っていたと、素直に評価したいなと思いました。本当はラジオやっているときからリレーションをつくって、そこで集めた声をみたいなことがあるのですけど、そこをすっ飛ばして受験に関係ない人も含めてR-1に引き寄せたみたいな、割と話が早いみたいな。設計の緻密さというよりは、ごろっとした乱暴さみたいなところに何か面白みというか、割と目立っていたなと感じました。
栗林 : 僕は逆にめちゃめちゃ今っぽいなというか、今ならではのやり方だなというのを同時に感じて。これっていくらでも写真入れたりとか、ここにエモいボディーコピー入れたりとかできると思うのですけれども、そういうのを一切捨てて、一番最大公約数的にみんなが反応するところだけをでかくしてやるというところがものすごく潔く、シャープにそれが機能しているなと思って、そこの原点的なところと今の時代というメディア環境をうまく捉えているなと思いました。
三浦 : 僕はこのキャンペーンすごく好きなのですけど、評価するのは正直難しいなと思って。応募資料のリザルトを見たときに「SNS累積リーチ数と大きな話題化、ブランドとのエンゲージメントを達成」とあり、売りに対するコメントがありませんでした。
結論から言うと、ちょっと受験生に遠かったと思うのですよ。受験生に、「R-1を飲むと風邪ひかないからいいのだよね」という話がやっぱり一個抜けている。
嶋野 : これはやはりラジオとかウェブラジオで受験生の悩みを聞いて、それによってR-1って受験のためになるよという。ただ、さっきのカルピスは飲みたいなと言われてすごく理解できるのですけど、これが最後でこれだけ見てR-1を飲みたいなというのは、ちょっと気になりました。
イム : 今よくよく考えると、受験生は自ら自分に課してR-1を飲むのかなと、ふと思ったのです。であったらターゲット設定は、親世代なのではないか。僕も18歳の子どもがいますけれども、僕が見ても共感するようなアプローチのほうが、R-1の受験生に対しての売り上げの伸ばし方としてはあってもいいなと思う。要はターゲット設定自体としてどうなのかなと思った。あと、先ほど嶋野さんがおっしゃったとおり、これで人が動くのかなというのは、ちょっと想像できなかったというのが率直な感想でした。
橋田 : 体調管理というファクトが実はブランディングになっていて、カロリーメイトとまた情感は違いますけれども、きっと受験生を応援するということでエンゲージメントをつくる意味合いをしっかりと持った広告なのではないかと。
大八木 : これは続けてくれればカロリーメイトになる可能性すらあるなというところは、ポイントというか。広告制作者として考えたときに、技が効いているとかいろいろあるのですけれども、プロポジションをチェンジするためのダイナミックなアクティベーションって結構難しくて、それがしかも話題になることはとっても難しい。そういう中で果敢にチャレンジした姿勢、広告は評価に値するなと思いました。
細川 : 審査基準を聞きたいのですけど、売り上げはこの部門において考慮しなくていいですか。
橋田 : ありがとうございます。プロモ・アクティベーションというのは、売り上げも大きいですが、それだけが軸ではないかなと思っています。人を動かす、という意味で捉えると、エンゲージメントを高めることも立派なブランドの目標設定かと思います。よく最近やるのは、われわれも仕事の中で、若者とか高校生をつかまえてくださいというだけのオリエンテーションもあると思うのですね。それはブランドの生き残りとして販売の前にどうしてもやらなければいけない、というキャンペーンもおそらくある。それは、ブランドがずっと続いていくための目標の設定なのだろうなという読み方もできると思う。今までの議論の流れを聞いて、自分はそれでも販売に軸足を置きたい、私は目的自体に軸足を置きたいというのは、それぞれでご判断いただければと。
嶋野 : 個人的にはすごく好きで、日清さんがインパクトだけじゃなくて役に立つものをつくっているのにびっくりしました。
小島 : このインサイトってめちゃめちゃあるじゃないですか。スープどうしようって。
菅野 : このボケをやるために、でも普通にプロダクトアウトはしきれないから、1万個限定ということでプロモーション予算でやったんだなと思いました。どう評価するかというと、この商品をつくったということよりは、たぶんこのプロダクト1万個に関しても含めて、プロモーションとして、コミュニケーションとしてだけ捉えて、商品としてはなかなか評価しづらいのかなと思って。まず商品をつくったのは素晴らしいみたいなことを言いそうになるのですけれども、そこまではいっていないかもなとは思ったんです。コミュニケーションとしては相当面白い。小林製薬のあの雰囲気にしたいという気持ちもよく分かるなと思いました。でも、売れそうなのにね。
橋田 : 1万個完売したということですかね。PR商品ということですかね。きっとやっぱり話題化というところというか、ブランドとしての刺激という感じなのですかね、目標は。
菅野 : パウダーも売れそうだけど、カップヌードルが売れるのが大事なのですよね。違うカップラーメンを使っちゃった問題みたいな。
橋田 : たぶん褒められるところはたくさんあるというか、日清らしいインパクトはすごく残しているということだとは思うのです。
細川 : 私は全然別のところを評価していたのですが、「なくてもええけど」日清食品というのがすごくいいマッチングじゃないですけど、今、理詰めでこういうものをつくっていくべしみたいな世の中で、なくてもいいものをつくるという日清のブランディング姿勢を感じて、高評価を入れていました。日清のブランドの本質を言っている。理詰めでつくる今の広告もそうですけど、ずっとアンチテーゼを呈してくれる日清みたいな。ちょっとよく言いすぎたかもしれないですけど、いいなと思いました。
イム : いわゆる昔のハイボールというかウイスキーをソーダで割って飲むという文化をつくり出したような感じとちょっと似たような感じに、僕は見受けられて。非常に丁寧に全体にクオリティ高く、新しい文化を、お酒文化をつくり出しつつ、企業にとってもすごく利益をもたらすような気持ちいいプロモーションというふうに見えて、僕は高い評価を付けました。
小島 : ブランドの人格とクリエイティブのコピーも含めて、「それはまだ、流行っていない。」みたいなところとか、ジンという名前とか、翠という名前とかが全部が合致して、僕の心にグサッと、実際に生活者として来たなというのが思い出としてあったので、すごいよくできているなと。
栗林 : もう現代のマーケティングのお手本みたいだなと思って。その中ですごく悔しかったのは、コピーがめちゃくちゃすごいなと思って。今トレンドがものすごくたくさん生まれているけど、そのときのインサイトとして、トレンドよりもみんなが次のトレンドを知っている人になりたいというインサイトはあるなと思っていて。そのときに、「今はやっている」じゃなくて、「まだはやっていない。」あえて逆のことを言うことで、そのインサイトをぶっ刺すみたいなことは、ものすごくやられたなと思いました。
村山 : 次に何がはやるのかとか楽しく見つけたい人間からすると、流行っていないと言われたらやっぱり飲みたくなっちゃうという、アーリーアダプターぐらいの人たちをつかまえるという機能のすごさと、普通に飲み屋で見かけたのですけれども、「それはまだ流行っていない、それをうちが流行らせる、店長」みたいな、ああいういじられビリティみたいなところの、設計されていたのかはどうかはさておき、そういう遊ばれ方が今っぽい感じもすごいなと思いながら見ていました。
菅野 : 統合プロモーションとして褒めるのかというと、僕はCMが強力だなと思ったのですね。先ほど出演している女性の話もありましたし、「それはまだ、流行っていない。」という。同じ戦略でも、クリエイティブというかCMがよくないと、割とマジ普通だね、とたぶんなる。クライアントを選択するプロセスとしてはたぶん正論だし、すごく納得いくと思うのですけど、これがよくなったのは間違いなくCMとコピーの力かなと思ったときに、この部門で褒めるのか、テレビCM部門で褒めるのかみたいなところに関して言うと、すごくCM性の高い仕事だと、あえて忖度ない意見を言ってみます。
嶋野 : 本当にいいキャンペーンであることは間違いなく。ただ、これのどこがプロモーションなのかを例えば、後輩にどう説明すればいいのかが私の中で答えが出ていなくて。だから全くマイナスというのは1個もないのですけれども、プロモーションの賞としての推しどころが難しく感じました。
石下 : やっぱりこの作品の成功は、コピーはもちろんこの女優さんを起用したCMとカラーリングかなと思って。サントリーさんはよく、ブランドごとにカラーを持っていますが、その中でこのボトルの色を生かしたエメラルドグリーン、鏡月とも違うこの色を採用してポスターもやり切ったというところがすごく新鮮に見えたし、商品性とすごく合っていたなと思っていて。いわゆる広告的なクラフト力がすごいあったからこそ成功したんだなと思って見ていました。
大八木 : 今の話、僕、すごく大事だと思っていて、新しければいいのか問題って僕の中で常にモノを創るときにあって。これだけの王道というものをほめるというのも一つその意思というか。何かともするとちょっとアイデアっぽいのを選びたくなる自分もいるのですけど、一方で僕がクライアントだったら、本当に頑張ってやったから何とかはやらせてよとか、本当にいいコピーを書いてもらってCMをせっかく買ったのだからよくしてよと何か全てがうまくいっているというのは意外とほかの作品を見てもないなと思って。
菅野 : いや、広告は役立つのだなという勇気をもらいましたね、間違いなく。
東畑 : 僕はプロモーションとして設計図の美しさもあるのですけど、設計図の美しさと1人の個人の野心というか、「それはまだ流行っていない」というある意味いたずらというか、そこの掛け合わせというか、そこがすごく絶妙によくできているなと思っていて。このサイズ感を成立させるプロモーションみたいなのはものすごく難しい中に結構個人の個の、野心というのが混ざったことが実はすごいパワーを作っているなと思います。それはこのキャストの選び方もそうだし、このコピーということに対しては意外と戦略性よりそこがうまくはまったなという、そういう意味ですごく奇跡的なというか、ものすごく緻密なものとものすごくざっくりしたものがうまくオマージュされたなという意味で。
細田 : 僕は読後感としては面白いなと思いました。細かいところまでバカバカしくつくり上げることで、とにかく「知ってもらう」ということに全振りしているのが心地よいですね。前半と後半で取り組みバラバラしているところもあるのですが、それも「あえて」でしょう。またエントリーシートには記述がありませんでしたが、「せがた三四郎」をよく知る親世代をもう1回リマインドして子供世代を就職とかにいざなわせるという設計なのだとしたら、それもよく本当に考えられているのかなと思いました。
大八木 : ここまでばかばかしいことを真面目にやり切るその姿勢に拍手という気持ちで。よく言えばやっぱりこういう一発ネタって、胆力がないと本当に着地に失敗して見るも無残なものになるんです。セガゼミは結構ガチでこの開発者の人とかが本当にしゃべっていて、本当に授業をしていたんです。そこが一番心をつかまれて、いいなあというか、すごい。そのセガゼミとかを見たときに、これはやり切ったからすばらしいのではないかという気持ちになりました。
飯田 : 私はそんなに最初評価が高くなかったのですが、もう一度見直してみて、技術者の方が講師になっているというところをもう一度あらためて見たときに、セガって技術というのはすごい大事で、技術者ってたぶんコアだと思うんです、会社の中とかで。そこをきちっとヒーローにするというところをしっかり設計しているというのは、すごくそのブランドとしては王道だけれども、ちゃんとやっているのだなとすごく思いました。
イム : ターゲットが若者に対してセガをちゃんと知ってもらうという設定になっていたので、最初見ているときから藤岡弘、とかはそもそも若者は知らないだろうし、あと、昔の機器とか、どういうゲームがあったとかいうのも今の若い世代というのはもう知らない人が多いから、これどうなんだろうと思ったんですけど、上を見たら「60周年企画」と書いてあるのです。だから60周年企画と考えるとすごいいいコンテンツだなと思えてきました。
細川 : 私もイムさんと同じとこが気になっていて、セガゼミとかはすばらしいのですけど、全部セガを知っていてセガ大好きというか興味ある人に向けてのコミュニケーションになってるなと思っていて、「セガ、知ろう」というタイトル自体も、この息子の起用も、あと、こういうマニアックなテストとかも、本当にセガ全く興味なくて知らない人が興味をこれで持つのかなというのはすごい気になりました。セガファンとかが思い出したり喜んだり楽しむのはよく分かるのですけど。
嶋野 : ソーシャルマーケティング・インフルエンスで褒めてあげたほうが何か個人的にはしっくりくるなと思って。なので、今、細川さんがおっしゃったのに近い。例えば、この「せがた三四郎」を本来的には若い人は知らないので、それを知らないのを使っても関係ないじゃんと思いつつ、でもこれを使っていくとかなりテレビ局が取り上げてくれるからパブリシティがすごく掲げられるという、パブリシティ狙いとしてはすごく正しい戦略だと思いますし、1個1個のセガゼミとか細かいのも何かバズりじゃないですけど、広げる意思は、タネを感じていたので、1個1個の仕掛けはソーシャルマーケティング・インフルエンス的な思想があるんじゃないかな、その結果知る人の認知が増えるのかなと思いました。
東畑 : 売上がこれ確かにめちゃくちゃ動くだろうなみたいなことの貢献は絶対無視できないだろうと思ったり、音声ジュネレーターちょっと好きだったなみたいなことはあったりしたのですけど、嵐を使った最後のときに何かこれはやられたな、これ俺の仕事だったらいいなみたいなところまで嫉妬するとかがなかった。
ただ、何かこの枠組みを作ってものを動かすみたいなことはものすごく動いただろうなというのは想像がつきました。
栗林 : 本当に東畑さんがおっしゃったみたいなことが全てで、めちゃめちゃリスペクトはしつつ、何をここからくみ取ってよいだろうかというところはちょっと分からなかったというのはありました。そのいわゆる一番いいところは嵐の最初の曲の断片をうまくいろいろな素材に活用していくというところの正しいシズルの組み入れ方はいいなと思ったのですけど、それに対して目新しさがあるほどいいわけではなかったので、だからそんな感想でした。
石下 : 嵐が解散するという国民的ニュースのタイミングで、ものすごい数の企業を巻き込んで店頭で次々と物を売ったという、そのスケール感がすごいなと思いました。なかなかやろうと思ってできることではないと思います。嵐の解散のニュースというその潮目をちゃんと捉えて、着地させたというところが良いですよね。
あと、「夢」に関しても、もともとのデビューの歌詞にもありますけど、メンバーみんながそれぞれの夢をこれから追っていくタイミングで、特に大野君は1人でやっていきたいという夢もあったので、それも含めていいなと思いました。
三浦 : 僕これすごいいいと思っていて、これだけがっぷり組んで、彼らというものをある種、何というか、例えば、「彼らのその解散を映画にしました」とか、「解散ライブを国立競技場でやりました」とかいう落とし込み方もあったものを、広告的存在と捉えて、ものすごい数のスポンサーを巻き込んだという、広告ビジネスにしかできない仕組みをちゃんと作った。単なるタレントというより広告的資源と捉えて、あらゆるクライアントに対して感謝を提供するという仕組みを作ったこと、そしてそれは誰しもが想像できるように鬼のように大変だったことだと思うのですけれども、それを血へど吐きながらやり切ったという点において、リザルトも出ていますし、何よりも単なるアイコンじゃなくて広告的、社会的、経済的資源としてタレントを捉えたという点でものすごく意味のあるプロジェクトだったのじゃないかと思って、僕は結構高く評価したいと思いました。
尾上 : 僕はやり切った大変さとかもちろん、仕組みもすごいいいと思いつつ、嵐自体がここにあまりいない感じがするのが結構気になるというか、NEW DREAMといったとき、最初に「夢だけ持ったっていいでしょ?」と言っていたときの彼らの夢が今たぶん達成されているわけじゃないですか。ここから先のNEW DREAMは何だろうと本人たちが言わないまま。大野君は釣りをずっとやっていきたいみたいになっていますけど、それをこのコミュニケーションで本当はドンと言って、それにみんなが夢を追従するとかになったほうがNEW DREAMという言葉に重みがのったのではないかなと。そこがあまりない気がして、ビジネス利用されちゃっているみたいな見え方になっているかなとちょっと思ってしまいました。でも、すごいと思います、正直。
嶋野 : これはよく毎年新しいネタを頑張って考えてくるな、という「頑張ったで賞」的な意味で得点を入れました。毎年、人を巻き込むプロモーションをずっとやってきていますよね、すごく。
栗林 : これが悔しいなと思ったのは「雪見だいくふう」の中の一番良い撮れ高を再利用して拡大しているなというところがあって、やっぱりこのビジュアルはものすごくうまそうだし、購買喚起力もあるなと思っていて。実際その結果として「雪見だいくふう」の終わるときの話題の総量がエントリー資料右下に書いてあるんですけど、そこをちゃんと結果出してるからちゃんとグレードアップしてると言わざるを得ないなと思いました。
菅野 : レシピものってあるじゃないですか。僕ちょっとこの商品の類はあまりやったことがないから分からないですけど、たぶん悪魔と禁断ってもともと誰かがやったことをピックアップしたり、こういうレシピ系で言うと割と常套句っぽいのかなと思ったのですけど、そんなことないですかね。すげえ新しいやり方だなということで、SNSでちょっとはやっているのを見付けてきてそれを公式化したら割とワーッと話題になるという、そういう常套句があるのかなと思って、そのノリにはきれいにのっているのかもしれないなと思ったのです。
小島 : ただ、世の中にあまたあるそういう工夫ものの中で圧倒的に簡単、かつうまそうに見えるという、そのバランス、奇跡とバランスが整ったというところがすごい。
ただ、これは「禁断」なくても絶対食べたいからもっといいコピーがあるだろうとちょっと思っていました。
尾上 : もちろん僕も毎年よくいろいろやってきてすごいなと思っているのですけど、そうですね、禁断。禁断でなくてもいいかなという気は確かに。「なぜ、人は雪見をトーストにのせるのか?」って基本「知らねえよ」という話じゃないですか(笑)。「なぜも何もないですし、別に」なんですけど、なぜと言われると「ん?」って考え始めちゃうというその呼びかけがアクティベートの入り口としていいかなと思います。
細川 : 私は去年の「だいくふう」の、あのライバル社と組むとかああいう新しい枠組みがすごいいいなと思ったのですけど、今回、それに比べるとちょっとパワーが落ちたのじゃないか、元に戻ったというか、SNSで流行ってるものをというところだと弱いのかなと思ったんですけど、なぜか、雪見だいくふうのデータ数字のようにはねてるところの理由をもうちょっと知りたいなと思ったりしたんですけど、どう分析されますかって。
橋田 : 「だいくふう」は構造で、その構造自体は、別に誰かがつぶやいたりシェアしたりしたいものではなかったということだと思うのですね。これはどちらかというとすごいレシピで自分もやってみたということにかなり近づいてきて具体性があるというところがたぶんいろいろ拡散したポイントかと思います。
栗林 : ほぼ同じなのですけど、「雪見だいくふう」と言われて何か言える人はほぼいないと思うんですけど、雪見トーストと言われて、食べたいと言った人はほぼみんなみたいな感じの違いが大きくあるなと思っていて、そのユーザーの行動の誘発の仕方がよりとぎすまされているというのが進化だなと思いました。
飯田 : サントリーさんだからできるのだろうなと思ったのですけど、そもそも入ってないのにタイアップして、その人気者を使ってより広げたというところのすごさを私は感じました。入ってないものをタイアップさせて、「うん」と言うクライアントってそんなにいない、難しいなと思って。
石下 : きっともう、キウイが入ってない前提の結構な出口のところまで考えて設計して、こういうツイートもしましょうとかをまとめた上で提案したのだろうなとか想像しながら見ていました。ゼスプリのファンの気持ちの動かし方がチャーミングだなと思って、設計が緻密というか、ゼスプリらしい、かわいらしさがちゃんとここにのっかってるなと思いました。
橋田 : 他企業のキャラクターをアセットとして考えてキャンペーン利用するという発想の広さというか自由さみたいなところが非常に勉強になりますね。
三浦 : これは翠の「それはまだ流行っていない」に近い、否定のユーモアを広告に落とし込んでいくというのはなかなか最近やりたいけどなかなかできない高度な技術をSNSの文脈の中でやっている。先ほどからずっと言っている、SNSがベースとして存在する時代の新しいクラフトイズムみたいなものが存分に発揮されていて。
村山 : これはすごく素敵な本当にゼスプリ、キウイのまさにそれこそクラフト感というところもちゃんと生かされていて、チャーミングだなと思いました。
栗林 : 僕もこれめちゃくちゃ尊敬していて、超悔しいと出たときに思ったのですけど、ただ、これ以外に応用の仕方がかなり難しいなと思って、汎用性がなかなかないなと思っていて。フォロアーの多い企業とこういうコラボとかをやろうと思ってもなかなかできないなと思ったので、そこの部分で点数がめちゃくちゃ上げ切れるというわけではなかったというのはありました。
橋田 : サントリーのサントリー視点で見たらどういうことなのかということなのですかね、クラフトボスの。
栗林 : クラフトボスのコミュニケーション単体としてはすごくいいなと思うのですけれども、この賞のメッセージとしてこれをただ上げたときに伝えられるメッセージがあまりないのじゃないかなと思ったという感じはありました。
橋田 : 企業コラボレーションというWin-Winの形としても一つは捉えられるかなと思っていて、雪見だいくふうみたいなやり方もあれば、チームでがっつりとこんな形で商品の商品性をうたうというところにキャラクターを使っていくって、なかなか奇跡的ではあるのですけど、その奇跡を見付けるのも1つはわれわれの仕事かなと思います。
三浦 : 今この議論を見ていて、何をテイクアウトするのだっけという、何を再現するんだっけというときに、コピーをSNSと今のブランドに最適化したときに効くコピーって何だっけという視野でもう1回ちゃんと見ようよ、みたいなことを思いました。
あと、もう1個はキャスティング。今の時代に本当に広くキャスティングを考えるとか、その時代に広くブランドが掛け算になるパートナーを考えるという意味で、他メーカーの他ブランドのキャラクターで、しかもブランド商品とちょっとずれるみたいなところをアイデアとして出せるくらいの視野が今必要かもしれないねという示唆は、この仕事の中から見付けられるなと僕は思いました。
栗林 : 今どんどん強いものの絵のアンチがすごい強くなっているなと、世の中的に。企業が発信したものへの冷たさみたいなものがあるときに、下から行くというスタンスによって受け入れられる。ただ、それは狙っているというのがばれるとすごく見透かされるという難しさもあるなと。その視点で見ると、一番僕は新聞広告が本当にすごいなと思っていて、レイアウトも、文章もすごい、ちょうどいい、共感しちゃうものになっているし、それもレイアウトがすごいびくびくしている感じをあそこにまでちゃんと表現していて、そこも含めてバランスがすさまじいと思っていました。
太田 : SNSがすごい大事なプラットフォームになっている時代に自虐とか下から行くとかいうそのブランドのスタンスは、すごく一瞬スパイクはするのだけど、その後ブランドが疲弊しちゃう気がしていて、その、「どうもすいません」みたいなキャラが染み付いた後に、そこから何か動けなくなっちゃうんじゃないかっていう危機意識を逆に感じたりして、もう少しロングセラーブランドなのだから自分を大事にしてよと思っちゃった部分はありました。
東畑 : ピノってロングセラーの真ん中のど真ん中にブランドがあるので、カンフル剤を打っていくみたいな、割とスピンアウト的なところで新しく話題を作っていくみたいな意味では結構大事かなと思います。あと、単純に味が出ることを独立みたいに捉えたとか、そこを文春に報じさせたみたいなことは、瞬間風速の作り方としてはものすごくやっぱり面白いというか、ヒントがあるのではないかなとすごく思いました。
栗林 : 何よりあらためてすごいなと思ったのは、味を擬人化するというアプローチがあまり聞いたことないなと思って、ピノ全体のブランドというより、このピノアーモンドというものを独立させて擬人化させているところがすごいなと思って、それもただ売れてないから助けてじゃなくて、1回こういう失敗体験があってトラウマなのですという、誰もが自分にも当てはまるような、そこの共感のさせ方がすごい新しいテクニックだとあらためて思いました。
三浦 : SNSをやっていると人格があいまいなものはうまくいかないのです。全然評価されないというか。これは文春のWebのタイアップとか新聞広告とかいくつかのメディアを使った、ピノアーモンド味という新しい味のブランディング。それぞれのメディアに最適化したアプローチによって、この謙虚な、ちょっと引っ込み思案だけど、でもやっぱり売れてみたいという新しいピノアーモンド味という新しい人格を創造した仕事と捉えるとめちゃくちゃすばらしいなと思いました。
細川 : 学べるところがあるとしたら、丸アイスなのに文春とか、アイスなのに新聞15段みたいな、普段ブランドがいない文脈に置くとこんなに目立つとかチャーミングに見えるとかは積極的にまねしていきたいなと、これ見ていて思いました。
でも、そのときの結局、口調とかエグゼキューションというか、どうチャーミングに見せるかは、すごく繊細なというか、プロの仕事が求められるところですね。
南 : これで岩手日報に切り替える人はいないという意味では、このカテゴリーでは正直微妙かなと思います。ただ、この3.11から10年というのは本当にどのメディアもどのブランドもすごくメッセージングを苦労する。1年後でもないし100年後でもないという中で、この10年後、『岩手日報』はたぶん主に岩手の方が読んでいると思うので、岩手の方を裏切らずに県外の方にどう何を伝えるかという意味で言うとそのメッセージの中身としては、私は、さすが毎年、県外の人に忘れられても報じるべきことを報じてきた新聞ならではのメッセージイグだなと思いました。ただ、これでトレンドにのったからって別に『岩手日報』を取るわけじゃないからちょっと難しいかなと思いました。
嶋野 : 各新聞社さんが10年たったのでいろいろやられていることとは全くこれは異質に見えて、自分が地元に住んでいる地域の新聞社としてこれをやってくれる新聞はやっぱり信頼できるな、好きになるなって要素は絶対ある気がします。もちろんPRで本当はかなり評価されてきたんですけど、これによって新聞社を押す、やっぱり地元民として好きになるという気持ちはあるだろうなと見ていて思いました。
細川 : 審査基準で言うとブリーフによるのかなと思っていて、この狙いが地方紙として悲劇を風化させないって、100年先、200年先まで伝えるきっかけを作るというところであるならば、震災の日を制定したという結果はプロモーションとして評価してもいいのかなと、むしろ評価すべき。売上を増やすというブリーフではないからいいのではないかと個人的には高く評価しています。
小島 : 「最後だとわかっていたなら」からの思いが3年、4年たって本当に「県民の日」にその岩手県民の日になったときに、「大切な人を思う日」という名前で県民の日に制定されるのはすばらしいなと思って、これは誰が聞いても、あの日を忘れちゃ駄目なのは全員思っているし、「その日を県民の日にしようよ」は何となく分かるし、それは嫌だと誰も言わないけど、それは最後だとわかっていたのならということからの延長線上で、大切な人を思う日という名前にしたことが結構広告マンとしての腕だなと個人的には感じていました。
太田 : 風化させないということをゴールのためだったら県民の日を制定することは手段だと思うのです。それが制定された結果どうなったのかという話がやっぱり聞きたいし、その手前の、県民の日というものを制定することを目指してやってきましたといった、たくさん署名を集めたというところのアクティベーションがポイントで、そのときにどれくらいムービーが効いたかということかなと思っています。
村上 : 実はこの曲が主題歌に使われていたドラマが大好きで、何て素敵なプロモーションをされていたのだろうと思っていましたが、これどこまでこの曲買われたのかなというところがちょっと気になったのだったかなという印象です。
石下 : いいなと思ったのが解読したくなる仕組みの提供、誰もが答えが何か分かっているのにやっぱりやってみたくなるって、ちょっといいなと思って。誰でもインスタフィルターさえあればできるというところが、ハードルが低いなとか、シェアされたらこれがタイムラインが青で埋まる、色面でやるというのが新鮮に見えました。
南 : 米津さんだったらもっといいのができたんじゃないかなというのが正直消費者目線としても思ったところがありました。彼の出自を踏まえたセレブリティの発揮の仕方を考えたときに、例えば、この青というのだけでも目が見える人見えない人いろいろいるよねとか、デジタルで何かやりたいと言うんだったらユニバーサルデザインのことを考えてみるとか、そういうアプローチもあるのではないかと思いました。
菅野 : しっかり楽曲のコンセプトというかタイトルにもシンクロしていて、かつパッとは分かりづらいけれども、誰でも解けるというか試して知ることができるという方法論としては非常に、適切なぐらいの難しさという。そこら辺の設定は本当に難しいと思うので、参加型としては非常にすばらしいなと。
確かに、プロモーションといったときに、米津さん、今、放っておいても売れるのでね。この施策はどれだけ、どういう課題を解決したのか。これによって何か新しい層が開拓できた、もしくは何かしらの、知っていたけれど買わない人の一歩背中を押すまで行ったのかとか、そういうアクションを誘発するというか背中を押すようなことが起こったのかも知りたかったですね。ただ、この施策自体のレベルとしては非常に高いものだし、評価したいなと思っています。
大八木 : ブランデッドというところ、それでいて絶賛のこの言葉であったり出たアンケートから、淡いこの色にのせたという、そこの情感とかそういうものがプロモーションなのかどうかというところを超えて、何かすごくいいなと思いました。
イム : 率直にすごく美しいなと思いました。コロナ時期になって人の移動とかがなくても、その新幹線に乗る乗らない関係なく関与している地域の人々。どれぐらいの人数が見たかは、僕はここからあまり読み取れなかったのですけど、少なからずその映像で見て取れる世界観はすごく美しくて、その場にいた人々だったりとか、その流れている時間とか、あるいはその情景みたいなんかを思い浮かべるとすごく自分もその場にいたら何か幸せな気持ちだったのか、あるいはその移動手段に対してのあこがれだったりとか価値みたいなのが思い浮かぶんじゃないかということが素晴らしい。
細田 : これはブランド体験ですよね。今回出ている中で、もし本当に体験していたとしたら10年後も忘れないものはどれだろうと思ったときに、たぶんこれは生で体験した人、参加した人は10年後絶対に忘れないのではないかな、なんなら一生忘れないんじゃないかなと。
あと、すごくシンプルなイベントに見えて、ものすごくその文脈というか、コンテンツだけじゃなくてコンテキストを組んでいけるというか、本当にこの10年で九州にいろいろ自然災害があって、いたずらなことを言いづらいのじゃないかなと思ったときに、ひかりに全て託すんだという、ものすごい余白があって、いろいろな人がいろいろな思いで、あのひかりを見れると設計したところ、その2点を含めてすばらしいなと思いました。
村山 : 震災の後に流れていたあの九州新幹線のムービーの記憶がたぶんすごくあると思うのですけど、それを10年のときを経て、コロナという震災、それ以上の世の中になったときに、アンサーとしてこれが出ることのすごみがありました。
東畑 : その場にいた人の記憶みたいなこととか、胸に残ってる時間みたいなことに対してすごくいい施策だなと思います。ただ、感情移入する先が作れるとまた全然違う広がり方もあったかもしれないし、みんなの願いとか祈りみたいなことがこっち側に来たのではないかなみたいなことをすごく思いました。たぶん新幹線を見ている側のほうに目線が行っているので、その場にいた人とまた全然違う物語を何か全体を通して見たときに、点でいる人と全部線で見られてる人はまた違う物語を獲得できると思うので、そこがあるとイベントとしてのよさと、それを世の中に共有するときのストーリーテリングみたいなところが両方あるともっとよかったと思います。
菅野 : 闇の中で光が立つということは送り火とかもそうですが、その光自体に具体性はないのじゃないですか。抽象性があるものなので、そこに人がいると感じるということでいうと、線香もろうそくも、火をともすことによってそこに人がいると感じて、そこで生れる行間というか、見ながら説明しないけど、そこでみんなが頭の中で何か立ち上がってくるということを黙示的にやることがすごく効果的なのかなと思う中で言うと、比較的そういう意味ではちょっとお祭り感のある光の使い方だなとやっぱり思って、この中でそこに行間を感じてどこにストーリーを感じるかというところまでは届かなかったのではと。
小島 : これは思想がBURGER KINGらしくて、日本でもちゃんと受け継がれていて最高だとまず思いました。
三浦 : エイブルのキャンペーンだったら超すごいですよね、これ。エイブルとしてまちの魅力をほかのブランドを借りてくるみたいな仕切りにできたらすごく面白くて、BURGER KINGらしさの不備がちょっとあったかもというところもうまくカバーできたのかなみたいな。あるいは合同のキャンペーンで見せるとか、そこの構え方によって結構見え方も変わるプロジェクトだなと思いました。
尾上 : こっちに来いや的なことを表現するとしたら、そういうことが最初に言われたりしないと、割とそこら辺があまりないな。どういうつもりでこの人これやっているのか、親切心なのか。
橋田 : 文脈が分かってない人が見たら、BURGER KINGのギャグの意味が分からない可能性があるので。
尾上 : そうですね。BURGER KINGのない街は街ではないぐらいのことを言っていたりとか、結構極端にやったほうが多分面白いのだろうと。
細川 : BURGER KINGがないと、ファンに直接リプライして告知したって書いてありますけれど。その誘導線は今の質問には関係ないですか。ボードのほうに書いてありました。だからあの下北と似ているというか、しかも絞ってこういう過激なことをやって、そのばかげたところも含めて話題になって、広告になっていくところを設計しているのだと思うのですけれど。あえてターゲットを絞るというか。あのときもたった1人のファンのつぶやきを下北店全面に告知するというやり方だったから。
尾上 : もしかしたら、それぞれのユーザーの位置情報を特定はできないけれど、ツイートからこの辺りかなとか、読んでその人の周りを探った上で進めたりしたほうがドキッとするのじゃないかなとか。どのぐらいドキッとさせられるかなみたいな。
南 : 私はこれ、メチャすばらしいなと思いました。「個人的なことは政治的なこと」というのはフェミニズムでよく言われているスローガンで、広告業界やメディアでもジェンダーの問題は結構数年前から、MeTooもそうだし、「保育園落ちた、死ね」みたいなことがあって、女性活躍とかそういう文脈でたくさん企業もキャンペーンをやったりブランドを伝えたりしてきたと思うんですけど、これがシニアのしもの問題にまできたというか、それがすごくいいなと思っています。
日本は世界屈指の超高齢社会なのでシニアのマジョリティで、この人たちに個人的なことは政治的なことだよね、という文脈が伝わっていくことによって、また戻ってくると思うのです。女性の問題や若者の問題など、別のマイノリティや弱い立場の人に、個人的なことってみんなの問題だったよねという、そのストーリーが、文脈がまた戻っていくと日本にとってもメチャいいのではないかなというので、私は自分が普段やっている仕事を感じてすごくいいなと思いました。
あと草彅さんが絶妙というか。草彅さんはSMAPをやめて、残らなくて、新しい地図という革新派なのですけれど、でもそこまで「私はフェミニストです」みたいな感じでもないじゃないですか。優しい改革者みたいな草彅さんが持っていらっしゃる感じと、このアテントのブランドメッセージがすごく合っていて、私は自分の話ではないですけれど、すごくいいキャンペーンだなと思いました。
嶋野 : 唯一気になったのが、これがすごくいいというよりも、最後今回、かくさないパッケージと、今世に出ているじゃないですか。(ACC賞の応募期間の時には)間に合わなかったものだなと思っていて、もしプロモーションとして評価するなら、来年まとめて、かくさないパッケージのみんなで意見ができて、その売上も含めて評価できたりすると、個人的には審査しやすかったなと。
大八木 : やはりおむつというと、後ろ向きのもの。そこをパンツという形でリネームすることによって、マーケットを拡大し、闇に光を当てるというか、ジメジメしたものをカラッとさせる。そこに圧倒的な技があるので、これは間違いなくプロモだなと僕は思います。
三浦 : 僕もこれはPRとプロモーション両方でたぶんほぼ最高得点を自分の中では付けています。PRはPRでもちろん褒めどころがたくさんあるのですが、大八木さんがおっしゃるとおりで、プロモーションとして議論を起こすことが目的だという場合のキャンペーンもあって、それはPR的だと思うのですが、これはそれまで全く多くの人々が表向き会話してこなかったことを、社会的な議論として可視化することに成功していて、実際それがそのまま店頭でのアクションにつながっているという意味において、ものすごくPR要素を含んだ完成度の高いプロモーションだと思っていて、プロモーションとしてももちろん僕はすごく尊敬する仕事だと思っています。
栗林 : 僕、今気付いたのですが、このハッシュタグを考えたときに普通そんなに広がらないと思っちゃうのですよ。つまりSNSでめちゃくちゃ話題になることもないだろうし、PRでいきなり取り上げられるものでもない気がしていて、だからこそこれがすごいと思ったのは、ど真ん中で対話型テレビCMというものをちゃんと成り立たせている姿勢がすごいと思っていて、ちゃんとそこでテレビCMを使って、2万件の声を可視化することで初めてPRとしてもちゃんと取り上げられている。商品ど真ん中で入って、それを世の中事とするところは、ほかのPR案件ともかなり異質なタイプだなと思いました。
関戸 : ユーザーの気持ちと商品がすごく乖離しているおむつだったり、生理用品のようなものがいっぱいある中で、おむつを換えるというのをパッケージまで変えるまで落としているのはすごいなと思っています。
あとは、パッケージの変え方がすごく面白いと思っていて、五輪のロゴの炎上以降、パッケージとか世に出るもののデザインに対する一般人の視線の風当たりが結構強くなっている中で、プロセスエコノミー的にデザインの開発プロセスを公開していて、うまくいっているのを初めて見て、すごくそこも感動しました。
小島 : 全くの反対意見ではないですが、こういう話を議論を起こすためにハッシュタグを作るとか、プロモーションのほうから巻き起こしていくようなものは難しいけれどイメージできるのですが、これをやるためにテレビCMでそれを成り立たせる技の、今の自分たちの場所との遠さというか、すばらしい。でも結果的に巻き起こってくると、僕らが自分たちの技法でやろうとすることよりもさらにいい結果が出る。この下から盛り上げていこうぜ、こういうCM効かない世の中だしさ、という大きな全体としての流れの中で、全然そうではないルートから生まれているこの結果やこのクラフトにびっくりしました。この仕事は。
村山 : どの温度感の議を呼び起こしたいかを考えたときに、草彅くんのような人をアサインして、こういう語り口で表現しようということが、全てが緻密に設計されすぎていて、心の底から尊敬するお仕事だなと思いました。
世の中に今バズったり、議論を起こすコピーって結構まんまというか、検察庁○○に抗議します、○○に反対します、みたいなことがとりあえず投稿だけされて、3日後には忘れられているみたいな部分がものすごくたくさんあって、事実をそのまま伝えるだけのテキストは、魅力的ではないから耐用年数があまりないと思っています。
東畑 : 普通にCMが流れてもそんな対話は起こらなかったと思いますけれど、結構24時間テレビという一点集中で、一気にCMをいろんなパターンで語りかけるみたいなことをやったことが、結構起点を生んだみたいな。そこはメディアからの設計がわりと勇気があったというか。そこが結構大事なポイントだなと思っています。
尾上 : 議論の話は結構難しいじゃないですか。「議論を巻き起こすのが正解だ」みたいに数年前は言われたりしていて、結果焼け畑だけが残ったみたいな感じになっちゃって、議論だけ起こしておけばいいというのはもう終わりなのではないかなといったときに、これは対話で、何で対話になっているのかなというときに、自分の話だけではなくて利他性が入っているというか、自分の親がどうかなとか、ご本人というよりかは夫が、奥さんがとか、そこに気持ちが入っているのをくみ取れているから、見ていてウッとくる感じが、自分にも関係するのかなと思えるものなのかと思い、そういう意味では参考にしづらい仕事なのかもしれない。
尾上 : これは『広告』という雑誌の何号目かで、表紙にQRが書いてあるのですけど、買うと人によって違うのです。流通の経路が人によって違うので、それでいろんなパターンの表紙があって、QRを呼び込むとマップでここからこのように届きましたというのが見える。僕これを買ったのですが、近所で買ったら全然遠回りしてやってきているなと。そこに壮大な無駄さを感じたりとか、そういう体験になりました。
周りの人たちも皆さん買っているのですが、開けた人が少なくて、ペリペリ開けて見るのですね。すごくよくできているからもったいなくて開けられなくて、いまだに開けてないのです。買ったほかの人たちも開けてないと何人か言っていて、そのときこれは雑誌なのか、体験なのか、何だろうと、そこが少々不思議な気持ちになったところです。
橋田 : 雑誌の中身もきっとあると思うのですが、売り方というプロモーション体験で既に流通というテーマをそれを体験させられたということですね。
東畑 : 尾上さんが言った、買っても読んでないという、そことの整合性はどうとったらいい。
尾上 : ずっとこの本を本棚にあるのを見るたびにモヤッとした気持ちになっています。このままだとビックリマンのウエハースになってしまうだろうと。でもこれ自体がメインだからいいのかなと。分かんないですけれど、それを誰かに説明してほしい。ほかに買った人がいたら。
飯田 : 私も開けてないです。
菅野 : 僕も開けてないです。出だし、すごい企画があるから、この企画を台無しにするわけにはいかない気持ちが働いて、その先にどんなスペクタクルが待っているか以前に、入り口の企画がすごくよくできているので。アート作品みたいでもあり、非常に考えさせられるアイデアとして、クリエイティビリティとしては抜群に大好きですけど、これが何の意味を果たしているかすら、もはや解釈しきれてない。流通を特集するときに、自分自身を「流通を体現する」という、作品性が高い仕事だと思いました。
小島 : ネットメディアのnoteでも記事が公開されていて、そちらで中身を読むのですけど。雑誌『広告』は博報堂で出版しているものですが、歴代の中でも、一番若者にも知名度が高いのではないかなと思います。テーマを決めて、すばらしい中身を詰めて、中身を書いているけれど届かなかったね、というものに対して、そのテーマは一番自分が体験すること自体がプロモーションになっているというのはめちゃくちゃ憧れる。
大八木 : 今のものに少しだけ追加したいのですが、広告的なプロフェッショナリズムとして、お題に対して美しくエクスキューションで答えるというのがあって、例えば流通ということをコピーと捉えたときに、エクスキューションとしてこのプロダクトを出す。これがある意味プロモーショナルなのかなという解釈ができる気がしています。
だから分かりやすく価値は0円とか、実は企画がすごく立っているので、そういう意味でもはや開けなくてもいいのではないかという気にも今の話を聞いて思いました。
三浦 : これが博報堂の何のプロモーションになっていて、アートというか、一つのメディアアートとしては面白いし、例えばこれがメディア芸術祭などで評価されたらすばらしいが、一体何の課題を解決して、どういう人を動かしたのかが見えなくて。たぶんこれ、ビジネスとして成立していない気がするのです。
南 : こんなに資本主義社会の中で流通が複雑になってしまって、追うつもりはあっても追えないみたいなことに、今そこを解きほぐして透明化しないといけないでしょうというのがグローバルのビジネスの流れとしてある中で、代理店も流通にちゃんと目を向けないといけないところのメッセージがもしあったとしたら、めちゃくちゃクールだなと思って。
南 : 私自身はこれを一生活者として買っちゃっていたので、まさに動かされたという実感です。これこそプロモーションアイデア。しかもたぶんそんなに高額な予算をかけずにピリリと光るアイデア一発で、すごく醤油の新しいディメンションにいっている感じがして、私は家にマグロと卵焼きがあるのですが、二つ以上買ってしまう感じもプロモーショナルでいいアイデアだと思って評価させていただいています。
細田 : スモールバジェットですが、ビッグアイデアだなと思っていて。新しく醤油を売るといったらB to Cとか、何とかコマースとか、テックに行きそうなものですが、シンプルに醤油の新しい選び方を作りましたって、すごい発明なんじゃないかと思いました。確かに今までいろいろなパッケージの醤油を見てきたけれども、こんなに選びやすいものはなかった。パッケージデザインを超えたアイデアだと思っています。
イム : 食事とか飲みに行ったりすると、いろいろな食材に合わせて、こちらはこの醤油でとかいろいろな醤油が出てくるじゃないですか。だいたいそれを付けて食べると、確かに合わせてくれた醤油はすごくおいしい。自宅に帰ったり、スーパーマーケットに行ったときに、そういう体験があるにもかかわらず全く選べない。それに逆引き的に答えてくれているので、非常にいい企画で、これだとすごく売れそうだなと思いました。
石下 : こうやってあえて細分化したり、無理やりにでも当てはめたりすることで、トライアルのハードルがものすごく下がったなと。複数買いされていたと南さんもおっしゃっていましたが、醤油で複数買いすることってなかなかないと思うのです。そのきっかけを作ったことはすごいなと思います。
村山 : これミニサイズだということを今聞いて、すごく腹落ちしました。トライアルとして買うことによって、あとは○○醤油という本業を知って、その後大瓶を買うみたいな。トライアル試作としてものすごく機能したのかなと思いました。
醤油ファン的には、いやいやそんな単純化されては困りますよ、ということかもしれないですが、そもそも醤油に対して低関与だった人のトライアルとして、小瓶で好物に近いものをまず手に取ることは設計として美しいなと思いました。
大八木 : 私、料理するので。1個だけすごく言いたいのは、キュレーションだなと思って。パッケージによってキュレーションを成し遂げたというすばらしいアイデア。だからずっとこれ好きで。当たり前だけど卵焼きのときに真っ黒い醤油を使ったら、形が汚くなるから白醤油を使うとか。当たり前なのですけれど料理をしない人は知らないじゃないですか。
栗林 : これを付けたことによって逆に売れなくなった商品はどういう末路なのだろうとちょっと気になった。ただ、そこは張り替えたりすればいいのかなと思っていて、さらにプロモーションという線でめちゃくちゃすごいと思ったのは、一番エントリー資料の右下に小さくあるのですが、棚が拡大というところがすごいなと思って。一番上のシリーズ、もともとのラインナップだと、シリーズで棚を広くとって売る必然性はないけど、これにすることでものすごく営業の方々が売りやすくなったのがあって、いろいろなレパートリーがあるという棚の提案も含めてものすごく店舗での売上を上げる力があるなと。すごく実利的だと思いました。
尾上 : 棚の取り方だと、アイスのケースの横に醤油があったりしたら驚きがあるのではないかとか、そういう展開も全然ありそうだなと思う。あと、エントリーのときに、コロナの時期にこれが始まっているのですよね。料理を家で始める人が増えたというタイミングでこれをやったのが。それですごく売れているのではないかと思うのと、最後はスリーブを外してほしいと思います。土井先生も、「これはこれと思い込まないで料理をして、自分で考えるようになるのが料理なのですよ」と言っていました。
橋田 : でも買ってもらったらその可能性はありますね。
尾上 : そして最後外すときに卒業みたいな。自由になれるのだと。
村上 : ただただすばらしい。日清さんのコミュニケーションは、いつもおふざけがあったり、いろいろすると思いますけれど、これは社会的にというか、すばらしいことをされたと思って。あと開いたらかわいいという感じも、誰もが好んで、楽しくこれをやっていこうという感じもあっていいなと思いました。
飯田 : 私も普通に一消費者としてこれに出会ったのですけれど、決して猫好きとかそういうのを排除してもかわいいなと思ったし、そもそもシールにもともと若干違和感を持っていたんです。なので、中身、パッケージも含めて商品だということをこの商品を取って思ったことなので、中身のおいしさということもそうですけれど、商品全体としてパワーアップしたブランディングプロモーションができているなと思いました。
菅野 : すばらしさの部分で、このフタ止めシールを廃止したところが多分に気持ちとして含まれているのですが、このエントリー資料を見る限り、バックストリーでフタ止めシールを廃止したのが日清さんで、フタの耳の状態になることが先に決まっていて、それを愛されるようにするための解決策を猫にするということで言うと、今回の検証ポイントは、フタ止めシールをなくしたことでもなく、耳を二つ付けたことでもなく、「猫にしたところなのか?」というのをみんなで確認したかったということでした。
三浦 : 当然企業側の努力として各社やられることを、メディアがそういったものをちゃんと報道することで広げていくということを考えたときに、僕らクリエイターという仕事が何のためにあるのだっけといったら、一見堅苦しくて、もしかしたらつまらなく見えてしまう、きれいごとに見えてしまうことに、チャームを与えて受け入れやすくしてあげるという正義と市民の間をつなぐ魔法としてのユーモアみたいなもの。
大八木 : 今、僕らは蓋のツメが猫耳に見えるのだけど、この顔が描いていなかったら猫の耳に見えなかった。そこが着眼の素晴らしさですね。これ、猫の顔にしたら一気にバズるかもと。
太田 : 仮にフタどめシールのことを除いても、SDGs、環境によくしましたというものは、「どうや、環境にええやろ、SDGsやで」みたいな顔つきで出てくることが多い中で、それが反対にカップヌードルにとってはおいしくなさそうなほうに触れちゃうんだろうなと思って。いかにパッケージを愛されるように、おいしさを損なわないようにデビューさせるかという、 割と難しい課題に対してすごくシンプルだけど、めちゃくちゃ大正解を出したところが本当にすごいと思いました。
栗林 : それのサポートですが、僕もこれがすごいなと思ったときに、この情報をTwitterで出してめちゃくちゃ話題になっていたのですが、その時にSDGsやごみのことを全く最初は言っていなかったのです。この猫カップが出ましたよと。よくよくその情報を見てみると、実はごみが減っていますという情報の出し方をしていて、コミュニケーションで生み出した付加価値のほうが大きくなって、それによってちゃんと本題にされているように伝えているという情報設計がすごく進んでいると思って、その示唆がすごくあるなと思った。
東畑 : エコカップに変わるとかはよくあるけど、これは欲しいとか、ちょっと買ってみたい、確かめに行くみたいな、久しぶりにカップヌードルを買いに行きたい感じがあるところまでいっているのがヒントというか、SDGsとか環境に対してのアクションを世の中に共有するときのすごくいい事例だと思ったし、日清にしてはすごくチャーミング。6%は目つきが悪いやつがいるとか、そういう遊びもよくできているなと。
橋田 : SDGsをベースにした遊び方をうまくコントロールされているのかもしれませんね。
尾上 : 絶メシ毎年嫉妬し続けるのですけど、今回またすばらしいと思っていまして、烏森絶メシ食堂がレシピを取り寄せて、それで売れたら5%返すという仕組みはめちゃくちゃ横展開可能じゃんみたいな。今は烏森しかないかもしれないけど、どこでもできるし、そういうレシピという出歩きやすいものが有名な店とかではなくて、そういう店のものでも全然いけるというか。ちょっとクラウドファンディング的でもあったり、新しい投資のあり方とも言えるのではないかと。すごい発明なのではないかと思い、すばらしいと思っています。
石下 : 実際のところ味はどうなんだ、という声も上がりましたが、あくまで町の絶品メシで、ミシュランのような次元の話をしているわけではないのと、近所にある、実はちょっとうまいぐらいのところでも許されているんじゃないかなと思って見ていました。
それと、このキャンペーンは私もすごいなと思って。高崎から始まって、その時に既に横展開できるだろうなというのが皆さんも見えていたと思いますが、それを実際に一つ一つ形にしていっているところや、地域プロモーションからこれだけ拡張できるのが私たちにも希望を与えるものだなと思います。
三浦 : 僕もこれは超素敵なプロジェクトだと思っていて、地域の課題解決になっていて、なおかつビジネスモデルとしてサステナブルである。しかもそこに絶メシというコピーとか、一個一個の映像を引き出すスキルだったり、クリエイターとしての技術がものすごく必要でだった。
菅野 : IPとして利益が出る仕組みみたいなことなのですかね。思ったのが、普通は広告会社の構造でいったら、高崎市の絶滅しそうなものの仕事というとすごく予算がなさそうで、そんなことよりも車会社の競合をやっておけ、みたいなことに論理的にはなりそうだけど、こういうアイデアが先にあって、それをIP化して、いろいろな人を救うアイデアにもなっていて、ビジネス的にもどんどん大きくスケールしていくこと自体に希望を感じたというか。
でかいクライアントの競合を中心に生きていきなさいというのと全然違うクリエイティブの生き延び方としても希望みたいなのが。
大八木 : すごくいい話だと。IP化はみんな狙うけど、覚悟や粘りがなくて、何となく触っただけで、それこそアワード取ったらおしまいみたいな感じになりがちな風潮がありますよね。その中でこの仕事がすごいのは、新しいファンディングのかたちをつくったことですよね。絶メシのメニューを食べるだけでその発案者であるそのおじさんとか、たぶん会ったこともないし、これからも会うこともないだろう人に思いが届く。しかも金銭の形で。すごいと思います。しかも、そもそもの料理がすごくおいしそうだなと思えるのもすごい。食べログでも評価高いです。
イム : 2カ月ぐらい前にNetflixを見たら絶メシが出てきて。えっ、ドラマになってるじゃんって、見たのです。サイトの記事が一つ一つ愛情たっぷりに写真もしっかり撮られていて、一個一個ちゃんとしたものになっていて、かつ、ちゃんと運用されている。それのネタが集まってドラマになっていた。こういった地域創生のような事業は、個人的には最初出だしはいいけど、やっていたら息切れしちゃうみたいな現象が起きる。なのに、ちゃんとこうやって続いている感じがあるというのがすごい。そもそも作り手というか、事業を運用されている方の情熱もそうなのだけど、最終的に出来上がったアウトプットが非常に秀逸で、幅広く、かつずっと続いていっている
栗林 : この後本当にこの店に人が来ているのかどうかというところが、本当にサステナブルかどうかを見極めるポイントだと思っています。
太田 : まずドラマを見たその場所に住んでいない人は、聖地巡礼的に確かに1回きりしか行かないから、そこはサステナブルではないけど、もともとの絶メシの思想が県外から人を呼ぶための花火を打ち上げる話というよりも、地元の人たちにもう一度その店を知ってもらって、地元の人たちに支えてもらうというところで設計されているので、「ドラマに出たね」ってまた行ったり、「最近どう?」みたいなので、絶メシに取り上げられた店は特に地元の人を中心にサステナブルにお客さんが流れ続ける構造ができている。
東畑 : 僕らエージェンシーはどうしても強い者をより強くというか、さっきも車の競合の話がありましたが、割とそういうところがあり、宿命的なものに対して、スモールジャイアンツ、小さいけど意味がある、小さいけど価値があるみたいなところをこれからどんどん増やしていかないといけないときに、これはそこから始まった部分がちゃんと育っていっているところにこれからの希望、ヒントになるすばらしい事例だと思いました。
Cカテゴリー(PR)
大八木 : これは好きです。革新的なアイデアかっていうと、そこはいろいろな議論があると思うのですが、商品のシズルをちゃんと捉えながら、みんなが参加できる仕組みにするってつくり手の技量が問われるところで。僕は好きでした。
橋田 : 確かにただのネコじゃなくて、シンプルに洗ったものの上でスッと眠るネコという、めちゃくちゃシンプルだけど、そこにかわいさと商品のオチ感ができているというのは素敵かなと思いますね。
大八木 : 前にそういうリサーチをして、ネコ好きのスタッフがSIXにいるので、どういうネコがいいのかと議論したときに、例えば洗濯物の中から出てくるネコっていうジャンルがあると聞いたことがあって、ちょっと撮影に生かしたりとかしたこともありました。
石下 : 今回、ただのネコじゃなくて保護猫っていうところにフォーカスしたことで、オピニオンリーダーをちゃんと動かしたっていうところが、設計としてうまくいっていたポイントかなと思います。そういうオピニオンリーダーを自発的に動かすことがPRとして大事な仕事の一つだと記憶しています。そういう意味では、これはPRでも褒めてもいいものじゃないかと思いました。
尾上 : もちろん僕もソーシャル・インフルーエンスにすごく適しているなと思うのですけど、もともと商品が別にネコ向きではないじゃないですか。でも無香料で、一番そういうのを気にしそうな生き物ですら、すやすや寝ちゃうようなものですっていうふうに、ちょっと商品の価値を変えているっていうか、そうすることで、ただ無香料の商品ってだけではなくて、こういう幸せがくっついてくるようなものって、じゃあ赤ちゃんも大丈夫かなとか、そういうふうに関心が転がっていくような気がして、商品の価値の認識を、狭そうに見えるものを結構広いものとか幸福みたいなものとうまくくっつけることができているのかなとは思ったりもしました。
菅野 : ヤクルトレディがわざわざみんなのところに行くというのは、人里離れた老人の方とか一人暮らしの方とかの安否を気遣う行為につながっていたように、ヤクルトは昔からそういう姿勢と思想を持っていましたということをあらためてやっているような気がしました。インナーに対する再確認のような。
橋田 : 訪問販売を疑問視する声に対して、その価値というものをもう一度、ネガティブになりそうなところに対してそこの、PR的な言葉で言えばパーセプションを変えにいくということをしているという感じですかね。
南 : コロナで結構エッセンシャルワーカーの方とか注目されて、みんなでお礼を言おうみたいなムーブメントというか、機運が高まったりしていて、やっぱりエッセンシャルワーカー、医療従事者って男性も多いですけど、保育士さんとか医療関係者とか、結構女性が多いのですね。そういう中で、たぶんこの「ヤクルトレディの方たちはエッセンシャルワーカーではないよね」というところで微妙な立ち位置になっていたところを、あなたたちもエッセンシャルなのだよということを、ちゃんと社員に向けて、ヤクルトレディの方に向けて、このタイミングで会社が言ってくれるというのは中の人をどんなにエンパワーしたんだろうかと想像して、私は結構高く評価したんですけど、ヤクルトレディという言い方はもうそろそろ見直してもいいのじゃないかなというのは思いましたが、期待値を込めて割と高めに付けました。
栗林 : 真ん中に、世論も変えた的なことが書いてあるんですけど、結果として再生したというのは、ほぼたぶんアドで回しているなと思っていて、それに対するPRがどれだけ結果が出たとか、社会とどれだけ握手できたかというところの言及がなく、世論までは作れていないなというイメージでした。だからちょっとそこが評価しきれないなというのが。
イム : 結局あの映像で描かれているのは玄関前だけなのです。玄関前というのがお客さまと届けている方とのコンタクトポイント、そこをただ商品を届けるということだけじゃなくて、人と人の関わり、なぜ自分たちが仕事をしているのだという意味を表現していた。何よりも社内の実際その職に就いている方が、自分がなぜこの仕事をしているのだということに対して、その仕事をしている20~30年ぐらいのことを思い返した時、やってきてよかったなと思わせられる。ヤクルトという会社に感謝とか、この地域に感謝という気持ちを呼び覚ますような映像になっているのではないかと思っています。
橋田 : ありがとうございます。PRの定義の中ではたぶんターゲットをしっかり規定して、その人たちのパーセプションチェンジを行うみたいな意味合いもあったりすると思うので、狭いからといって駄目だというところでは全然ないかなと思います。
大八木 : イムさんの話を聞いてすごく心が動かされました。この仕組みがずっと昔からあったという話のストーリーも知らなかったし、だからこそ、そういった話を今この時代に伝えるというのは、見守りのライフラインとして価値を再顕在化させたということですよね。今、本当に働いている方々に対してこうゆうことをやろうと思ったクライアントもすばらしいし、それをちゃんと美しいムービーとしてつくったというのも、すごく価値のあるPRだなと思いました。
菅野 : 僕は「ヤクルトレディの訪問販売を疑問視する声が世の中に広がっていて、ヤクルトレディは傷ついていました」みたいに読み替えていました。
嶋野 : そういうことだったら、何か分かります。
橋田 : 出品の仕方が、インナーコミュニケーションというところから逆算して読むと、そう好意的に読んであげることもできるかなというふうに思いました。ありがとうございます。
飯田 : 京大が学ぶということをYouTubeでもっと気軽にやったということが一個あるのかなと思っていて。私がこれを知ったきっかけが実は母親で、母がスマホからこの講義を聞いていたのです、京大の。それを思った時に、基本、もう70ぐらいの人がここに対して学ぼうと思ったというところを作れているのは、すごいなと思いました。
大八木 : これは褒め方として、単体というよりは、教育のコンテンツとか学ぶ機会ということが、コロナをきっかけに非常に進むという、そういった意味の事例としてはとても褒めたいし、僕は好きでしたね。
菅野 : 普段生きていると、なかなか京大の講義を聞いてみようかなというふうにはたぶんならないのですが、あのタイミングで、知の巨人はこういうことをどういうふうに考えているのだろうとかっていうことを、関心が高まったタイミングでスッと、京大ができることというか、差し出してあげることによって、普段アカデミックに触れなかったような人が触れに行くということが起こったというのはすごく社会的にもいいことだろうなと思うし、解決策にならなくても、そういうことに意識が及ぶようになるというのを提示されて、何かうっすら意識が変容している気がします。
嶋野 : 細川さんに伺ってみたいのですけど、このコピーというかハッシュタグをどう捉えたらいいかというのがちょっと理解しきれなくて、あの時期みんなが立ち止まらざるを得ないときだったなと僕の中で認識していて、その時に、今一回、将来のために考えるとかそういう言葉なら分かるけど、この時に「立ち止まって、考える」というのはどういう意味を込めて作られているんですかね。
細川 : このハッシュタグ、結構使われていて、みんな「この講義すばらしい」とか、「この話、次はこの授業を取ってみたい」とか、何かちゃんとこのハッシュタグが生きているというのを確認して。「立ち止まって考えるいい機会、いいチャンスだよね、今」っていう前向きな提言を世の中にコロナ禍にしたと思うと、かめばかむほどじわじわ来るいいプロジェクトなのかな。
尾上 : 僕は「立ち止まって、考える。」って結構いいなと思っていまして。どんどん先に行こうとする中で、「いやいや、もうちょい考えてみない?」というふうなことを、京大みたいなところから言うというのはすごく価値があることだと。映像も過度に演出していない地味な男性の顔がずっと流れて。コメント欄がすごいんですよ。コメントがバーッとあって。というのを提供する、そのトーン&マナーの設計とかはすごくうまくやっているなと思いました。メッセージも含めてですが。
PR、合意形成。大学という概念の拡張でもありますよね。そもそも生徒だけじゃない人も授業していいじゃんというのが流れとしてあると思うのですけど、そういう大きな実験にもなっていくではないかなと思います。
菅野 : 京大が、割と何か京大っぽいキャラクターですけど、「立ち止まって、考える。」って、すごく堂々としているなみたいな。誰もいない教室で先生がしゃべっているぞみたいな感じが、雰囲気に安心感があるというか、いろいろ、どこが本当か嘘か分からない世の中でということとか。
村山 : 本人たちがそこまで設計してやっているかと言ったら、ただ本当に自分たちの使命に突き動かされて、パーパスみたいな、ブームに突き動かされてやっているということだと思うのですけど、客観的に見るとすばらしかったのではないかなと、評価しています。
南 : 広告業界はCMフルリモート撮影とかも話題になっていましたが、みんながみんなそういうレベルではないのです。先生が普通に自分の研究室から配信をしていて、めっちゃ不慣れなのですよ。Windowsを起動させて、「Zoomはこれでいいのかな。聞こえていますか」みたいな感じでやっていて、当時の空気感を思い返すと、今京大がやるべきことというか、アカデミアがやるべきことというのを提案した方は、すごく私はすばらしいなと思いました。
イム : 個人的には、これ、何で謝りから入るのだろうって、ちょっと残念でした。趣旨はすごくいいのだけど、ネーミングが「遅れてごめん」っていうのはちょっと何かもったいないなと思いましたね。
橋田 : お祝い事ってちょっとでも逸すると、みんな気後れしてもう言えない、とずっと置いちゃっているものを、「遅れてごめん」という免罪符のような言葉と行動をつくることによって、「遅れても祝う」という文化や行動を作りたいということだと。
小島 : 祝われるほうは1カ月たっても2カ月たっても、そのもの自体がめちゃうれしいじゃないですか。コロナで花屋さん大変で、でも何となく日常楽しむぐらいから花を急に買い始めたりとかっていう流れもある中で、最近花は買うし、花っていいなって思うし、祝えていなかったのを祝おうみたいな、世の中の気分と個人の祝われるときの気持ちとっていうのに全然無理がなくて、新しいお花のあげ方とか、おめでとうの言い方を作るっていう意味で、すごくPR的で、皆が幸せで。
「Okuléte gommen」というのは、「ごめんと言っているんだけど、ね」みたいな日本的な下からスッと行く、「つまらないものでございますが」という感じでいいなと僕は好意的に受け取っていました。
関戸 : 祝う側の遅れてしまったときの呪いを解いてくれるようなフレーズで良いなと。お花の会社がやっているからいいのもあるし、お花だけじゃなくても、祝いたいことはどのタイミングで祝っていいじゃないみたいな気持ちが伝わってきて、評価しています。
栗林 : すごく大げさかもしれないのですけど、僕、すごいマーケットを作った言葉・タイトルだなと思っていて、いわゆる感謝市場とかお祝い市場みたいなものがあったときに、謝罪市場というか、「ごめん」」という感情を持っている市場ってすごい大きいなと思っていて、それに対して何かアイテムってなかったなというときに、これがあることでマーケットも取れるし、マイナスだったものをちゃんとプラスに変えられるユーザーへの価値もものすごく発揮していて、いいなって思っていました。
嶋野 : 花屋のプロモーションとしてはすごく分かるのだけど、PRとはどこで考えればいいのだろう。
太田 : そう。花に限らず、コロナで売れなくなっちゃったものを売り切ろうというプロモーションのアイデアとしてはいいけど、PRだったら、市場としても継続的に本当に定着しているのかっていうところが気になっちゃいますよね。
嶋野 : まさに「絶メシリスト」っていうような名前がなかったせいなのか、「Okuléte gommen」がこの書体である必要は何なのかとか、1個1個が。プロモーションって言われたら、おしゃれに作っておけばいいのかなと思ったのですけど。
菅野 : 「お祝いは遅れたら、もうだめだ」から、「お祝いが遅れても、お祝いしていいんだよ」にパーセプションチェンジっていうのは、だめなのですか。
栗林 : 応募資料にも「継続的に活用」と書いてあると思うのですけど、これはポテンシャルとしても、花屋を巻き込むときにも、遅れ祝いというものをするときにも、賛同者って必然的に集まりやすい構造だなと思って、それでユーザーとお花屋さんだったりほかのメーカーが「遅れ祝いって、いいよね」って握手するっていうのは、すごいPR的なんじゃないかっていうのは思ったのですけど、そんなことはないですかね。
橋田 : いろんな視点が出ましたね。「ごめん」というのが、謝罪自体が気持ち悪いっていうお話もありましたし、でも逆にいうと「ごめん」という照れということだとは思うのですけど、それを作ってあげることによって、祝い事を遅れても祝うという気持ちであったり文化みたいなものを作っていこうとか、そもそもPRとして定着していないけれどもという話と、これからの可能性というところで、ACCみたいなところもあるので評価してもいいのじゃないかみたいな視点があるかなと思いました。
細田 : シンプルによく出来たグラフィック広告とも言えるのですけど、すごいその時代とかそのタイミングのコンテクストを組んでいたなと思っていて、あのときに口紅を買うとか、スーツケースを買うとかって、1年間不謹慎でもあったり自粛ムードであったときに、いろいろな人が「自粛やめよう」とかって言っていたけど、これが一番素直に消費を促すというか、買うって、確かに無駄遣いとか無神経ではなくて希望につながっていることだよねっていうことを皆が言われなくても、そこに直接書いてないけど、ソーシャルで皆が語り出した。すごいいい会話を作ったのじゃないかなと思います。
橋田 : このレシートは架空じゃなくて、売れた実績っていう、そごう・西武で売れたスーツケースがちゃんとある個数で、2020年のある期間、コロナに入ってから売れているもの。口紅、浴衣、ハイヒール、ベビーギフトみたいなものが売れているという事実が印刷されているということですね。
細田 : 百貨店の売上って、毎回ネガティブなニュースになるじゃないですか。今年歴代最低ですみたいな。で、歴代最低だったのですよね、確か。そんな中でもこういう人たちがいたっていう、ネガなニュースが出る年末にポジに変えたっていうところも、もう1個PRとしても褒めていいポイントかなと思うし。
橋田 : 確かに、タイミング的な視点というのはすごいPRっぽいところだと思いますね。
細川 : レシートっていう無機質なものがすごい希望のリストに転換されるって、今までと違った見え方をレシートに対してできる、そして感情を持つって、すごい表現としてすばらしいなと思ったのと、歴代最低売上を希望と転換したっていうのも、パーセプションチェンジとしていろいろ達成していて、私はこの施策というか、表現はPRにふさわしいのではないかなと思っています。
石下 : 実際に買われた数っていうファクトをもとにして、ちゃんとそれを広告表現に転嫁していて、すごく立派なPRだなと思うのでそういうところをちゃんと評価したいって思います。あと百貨店ってコロナ禍で閉めざるを得ないときもすごくありましたよね。そういったときに、意外と百貨店で働いている人にとっても希望になれたのではないかなとか、インナー的な意味でもすごく意義があったんじゃないかなと思いました。
橋田 : PRリリースでスーツケースが何個、この数売れましたと書いたら、全部売れていないじゃんと、きっと終わっていると思うのです。それがこの広告表現によって、PR的にもちゃんと希望っていうほうに振っていける入り口みたいなところを作れたっていうのは、すごい面白いケースなのかなと思いますね。
大八木 : 光を見た時に、そこに人の営みがあるという話がありますが、百貨店にとっての光って、やっぱり購買。それこそが人の営みである、という赤裸々な事実をすごく美しく広告的に処理しているというのがいいですよね。口紅を1000本売りましたってPRにはならないけれど、それをこのような形で広告にしたてあげた瞬間にPRになっている、しかもそれが人々へのエンパワーメントになっているというのは、とてもすごい仕事だなと思いました。
嶋野 : これはインナーコミュニケーションですっていう出し方だったら、これはインナー向けのPRとしてすごく分かるなと思っていて、そうなると、タグラインの「わたしは、私。」っていう、これはやっぱりユーザー向けのメッセージのような気もしていて、企業広告で対外的なものなのか、インナー向けなのかというのが、ちょっとずれているような気もして見えていて、気になりました。
イム : こういうデータって、結局データをデータのまま出して、それを分析したって言う人たちがたくさんいるのですけど、僕は基本的にデータをデータのまま出すんじゃなくて、考察とその解釈みたいなことがすごい大切だと思っていて、まさに解釈をすごく時代性に合わせてポジティブに変えた好例だと思っているんですよ。
大八木 : 面白いなと思ったのは、広告の枠にはめたからこそPRとして価値があったというところが、僕はすごく面白というか。ちょっとだけさっきの意見に僕も賛成なのは、このキャンペーンをずっと通してやっていることは少しちぐはぐしているなとは思うのですけれども、これ単体でいうと、メタ概念としての広告っていうもののあり様を考えさせられるというか、そんなことを思ったり。
石下 : PRというふうに考えたときに世の中の流れとして、生理用品、生理が貧困みたいなところが話題になっていたタイミングで、そのタイミングもすごくよかったのかなって思っていて。
村山 : 世の中の軽減税率の問題をちゃんと打ち出すっていうことのPR力は、私はいいことだなと思いました。
南 : やっぱりコンビニって、皆さん一番買い物している場所だと思うんですよ、多くの人にとって。なので、そのパーセプションを変えていくっていうところの社会的な責任を普通の民間企業よりも多く背負っているところだなと思って。
例えばレジ袋の有料化とかも、かなり多くの人の「プラスチック問題があるのだ」っていう意識を変えたと思っていて、そうした「コンビニで変わるんだ、人の暮らしは」っていうこともあります。根本的な解決にはならないっていうのは当然で、なぜなら根本的解決をするのはファミマではないからです。それでも2%を背負っているっていうのは、褒められこそすれ責められなくてもいいのかなって思いました。
橋田 : ありがとうございます。南さんの話の中で、コンビニという何か社会の中での存在意義とか、接点としての効果みたいなところが、そういうことなのだなと。ポリ袋もそうであったし、軽減税率の話を学ぶというか、知らしめるというか、広げていく接点としての役割があるのだなというのは非常に面白かったというふうに思います。
細田 : コンビニで取り組んだのは大きいことですよね。同じコンビニでももっと多くの人に触れる売り場に展開していったら、今後、さらに強いメッセージになっていきそうです。同じ問題に取り組んだ海外の先行事例に「タンポンブック」というプロジェクトがあります。タンポンは生活に欠かせないのに税率が高い。なんなら本のほうが安い。「だったらタンポンを本のおまけにして売ってしまおう」というアイデアです。本という体裁であれば、男性も訪れるコーナーなので、より多くの人に問題提起できますよね。そんな発展系も見てみたいと思いました。
尾上 : 同時に、ただ工夫すればするだけ耐用年数が短くなるような気もちょっとしちゃって、最初目立つのだけど、すぐ廃れちゃったりするのも。先ほどのポリ袋の話もそうですけど、じわじわとボディブローみたいな変わっていくっていうのも結構大事だと思うのですね。
栗林 : 今これを見て、昔カンヌで、手を洗うと中からおもちゃが出てくるやつを思い出していたのですけど、それをすごいアップデートしているなっていう感じをしていて、余計なインセンティブがないというか、これだけで成り立っていて最適な形だなと思って、実際いいプロダクトとクオリティの高いアニメーションを作るという2つの掛け算で、ここまで露出を生み出せているので、ものすごく新しくていいなと思いました。
太田 : 難しいですよね。誰と合意形成したと思えばいいのかというところが難しくて、確かにうちの子供は手洗い嫌いではないけど、ちゃっちゃっと2秒ぐらいしか洗わないから、子供たちが30秒洗うようになったとも言えるのですけど、彼らの意識が改革されて30秒洗うようになったというよりも、この石けんそのものが、もうそういう直接的に効果を発揮しているから、アクティベーションのほうで何でこれ出てこなかったっけって、ちょっと今思いました。
嶋野 : これに限らずだと思うのですけど、まだまだ世の中だと、社会にいいキャンペーンは全部PRに応募しちゃえみたいな考えが多い気がして、これがやっている活動自体はPRというか、アクティベーションのほうなのだろうなとは思いました。
橋田 : パーパスじゃないけれども、ちょっと昔のCSRはすべてPRに入っていたみたいな時代の応募のされ方をしているのではないかと。
尾上 : ドリームズって、石けんとか出していて、2010年にタブレッド型の石けんを発売していて、2017年に紙石けんをバイ菌に見立ててキャラクター化するというのを売っていると。で、今回それをコロナに合わせて、30秒で溶けるようなグッズを一緒に作ったという話らしいです。
イム : 僕は結構ソーシャルの声、自分がすごくビクビクしながら企画作るから、はねなかったらどうしようというふうに、そっち気になる系なんですけど、これ、歌要るのかなって結構思って、この石けんがかわいくて、これ買って、30秒で消えるからOKでよくて、たぶんあまり再生は。僕が調べる前だと1.3万ぐらいしか再生されてなくて、歌がいいかもしれないですけど、でも歌ってくれる人は別に石けんとは関係ないから、この石けんがかわいくて皆が使って、30秒洗っていたら、それでいいのじゃないかなというのをちょっと思いました。
尾上 : これまでも何度か出ていたと思うのですが、継続してやっていて、かつアップデートしているっていうのがなかなかない中で、よく続けているなって。ちゃんと効果が毎回出ていて、何だったら、ヤフーとラインの統合とか、防災が一つの柱になるぐらいの感じのことまで言われていて、そこまで持っていくプロモーション契約っていうのはすごいなというふうに純粋に思っております。
細田 : 僕も基本的には、シリーズ展開としてこういうのを1回で終わらせないで、続けているっていうのがすばらしいなと思いました。
菅野 : ずっと続けていてすばらしいけど、直線的なので、確かに都の公式コンテンツっていうのはすごいなって思うのですけど、今回の応募に関しての新しい部分というか、新規性とか、アップデートの部分っていうところはどうなのでしょう。
大八木 : 模試をやる動機付けって、どういうところだったのかな?っていう疑問が少しあって。例えばこれが義務教育の道徳の時間に採用されました、とか、そのようなステップアップを今後は期待したいですね。
嶋野 : アメリカでワクチン打ったら100万ドルあげるみたいなのがあったじゃないですか。あれは批判もあったけれども、あれで受ける人がすごくいたことを考えると、本気でこれをやる人を増やしたいのであったら、タレントを使ったビデオを作るより、タレントの契約費を賞金とかに使ったほうが、あまりよくないかもしれないですけど、やる人は増えたんだろうなとか見ながら思ってました。
関戸 : AWARDSとしては毎年開かれるものだから、昨年からのアップデートがすごく気になるところなのですけど、継続性という点においては、いかに震災という消耗されてはいけないことを伝えなきゃいけないときに、表現も消耗されないように、あえて同じふうにしているのかなって意図を感じました。継続性というのは評価がいつも難しいなと思うんですけど、個人的にはあまりすごくアップデートしないほうがいいのではないかなと、あまり急がないほうがいいんじゃないかなと思いました。
嶋野 : 去年はここまでの広がりはなかった気がするのと、三大アスリートというインフルエンサーというか、オーセンティシティーを絡めてきたところと、ジャンルの拡張なんじゃないかと。システムも去年そこまでできていなかった。去年ハッシュタグベースが多かったので、システムを作ったのと、周りを巻き込んだのかなと好意的に見ておりました。
飯田 : コロナが終わったとしても、この取り組みってずっと続けていく、学生の大学進学に対して広く開いたものなのじゃないかなと思って、そういう意味ではすごく新しい習慣を作っているのではないかと思いました。
菅野 : 前回は相当コロナ期にアピールできない学生のためのプラットフォームを作った止まりになっていて。もはやコロナを言わなくなっているのですよね。その状況をたぶん1個越えて、学生がいろいろと発信していくプラットフォームを作って、そこに皆が協賛したりとか、賛同したりアスリートの協力を広めていったりとかという仕組みにしていっているという感じで、一般社団法人に変わっていたりとかするのですよね。
橋田 : だから、仕組みになったっていうのが、結構デカい結果の進化じゃないかなと思いますね、去年と比べて。
菅野 : そうかもしれないですね。最初はハッシュタグだから、たぶん相当仕組み化されちゃう。
イム : コロナが終わってもこういう関係性というのはあってもいいよねっていようなことを思わされる感じで、非常にいいなと思いました。要は進学の道をもう1個作るということだから、新しい考え方が生まれるという意味では、非常にこの賞にも向いているなと思いました。
細川 : いろんな人たちを巻き込んで、プロジェクトが継続的に進化している感じはすごくいいなと思っていて、ハッシュタグとHAND UPのリンクが弱いという感じで、別のプロジェクトに見えちゃうのがもったいないな、もうちょっとネーミング何とかならないかというか、単独で見たらいいのですけど、そこがちょっと惜しいなとか思いながら、でもこれだけちゃんと役に立っていて広がりも見せているのは、いいプロジェクトとして評価していいと思っています。
イム : ツイートは普通にちゃんと機能していましたよね。この「ラグビーを止めるな」って、サイトに行ってクリックすると、関連ツイートが出てくるのですけど、割と直近のやつが上がってきていたりしていて。
橋田 : 「HAND UPを活用し」とか普通に出てきますね。……これは「スポーツを止めるな」が機能しているということですね。
小島 : 魔の7歳、僕、全然知らなかったので、そもそもそれが危ないのだよっていうことの話題性というか、その事実が広がっていく感が強いし、このインサイトというか、光るおまわりさんを見るとドライバーは思わずブレーキを踏んでしまうというところの発見もそうだし、あとはこの肩にかけるおまわりさんの「まもってトート」というすべてがピタッとはまっていて。
南 : 魔の7歳とか、高齢者は免許証返上すべきなのかみたいのは、すごくメディアが得意なワーディングだったり、社会構造を変えていくというのは私たちの得意なことなのです。ただ、魔の7歳を実際に守っていかなきゃいけないのは親御さんだったり、どうしても個人の解決策みたいなところがメディア側は逆に苦手だなと思ったりする中で、こういうオート業界のHondaさんがこういうことを企業の社会的責任として、個人の解決というか、守るための施策をやられているというのがすごくいいなと思いました。
イム : 今までおっしゃっていたことは全部同意の上なのですけど、非常にもったいないなと思ったのはデザインです。トートバックの決定的にやばいところは、片面しかカバーしていないというところがあって。
尾上 : そこはある程度、認知だから、完全じゃないけどという。ただ、こういうのを。僕も愛知でこういう開発とかをやっていたのですけど。本当にこういうのをちょっと持つだけで、事故がだいぶ減るのですよ。そういう意識を付けるという意味でも、いいのじゃないかなとは思ったりしました。
太田 : Hondさんは本田宗一郎の時代からとにかく交通安全、「子供が死なない未来をつくる」ということをすごく会社事として取り組んでいる中でのこのコンテクストだったりするので、もちろん最終的に魔の7歳時が死なないようになる社会の変化というリザルトが一番素敵だと思うんですけど、その手前にHondaさんのコーポレートPRという意味でも、すごく返ってくるものが多いのではないでしょうか。
栗林 : 僕がすごい気になっているのは、本当に広がったのかというと、商品化ができたのは素晴らしいし、セレクトショップに置かれたのはいいけど、どれだけ売れたかとか、PRの露出のところがどこまで広がったのかというのが、うやむやになっているところが気になっていて。だから、そこのインパクトが弱いなという印象がありました。
嶋野 : これは私的にはプロモーションで褒めてあげたほうが本筋なのだろうなとはやっぱり思っておりまして。これを行ったことにいろいろな各社が続くようなムーブメントがあったら、PRとして褒めやすかったのですけど、ここだけで完結していることを見ると、プロモーションで褒めてあげたほうがしっくりきたなと思っておりました。
村山 : 大企業ならではの規模感でやるべきことのPR領域における提示として、すごい意味があったのかなと思っています。シールをなくすだけで33tというインパクトは、やっぱりものすごい数字だと思うのですね。割りばしを使うのを一個人がやめてみるぐらいの話ではなく、ほかのカレーのパッケージが紙。ちょっとうまいのが出てこないのですけど、シールをやめるとか、何かの部分を減らすとか、それだけでも評価されることを世の中に打ち出したことは、今後の爪跡というか「こんなことで評価されるんだ」とほかの企業に思わせたことは、素晴らしいことなのじゃないかなって思います。
橋田 : ちなみに、33tという情報にたどり着く情報回路は、どうなっていたのでしょう?
太田 : メディア。そうそう、パブリシティで33tって語られていた上に。でも私、逆に「少なっ」と思って、こんなに少ないことでも「ちょっと始めてみました」というのが、日清さんらしくていいのかなって思ったわけです。
菅野 : あのシールだけで33t、すごくないですか。あんなちょびっちいので33tって、めちゃくちゃカップヌードル食ってますね、みんな(笑)。
橋田 : 小さい一歩を、大企業がやる意味があるのかもしれませんね。
細川 : プロモーションのほうでは文句なしに素晴らしいと思うのですけど、パブリックリレーションというところで「うー」と思うところもあるんですけど、巻き込むってところは確かに。点になっている地域、プロモーションが多い中で、日本の地域創生として。今、何の価値観を変えたのかな、スイッチさせたのかなというのはちょっと気になっていたのですけど。
嶋野 : 私もそこが気になっていました、確かに。一発目はやっぱりなくなりそうなところを助けるという、より社会的なことを感じていたキャンペーンなのですけど、今年見ると、どっちかと言うと若干食べログ的というか、絶品のほうの意識が、地元に隠れたおいしいものを探すみたいな意識のほうに変わってきている気がしていて、そうなってくると、名前だけ同じですけど、中身の志がちょっと違うんではないかなと。どっちが正しいかとかじゃなくて、だんだんプロモーションに見えてきたなというのは。
菅野 : 確かに去年までのビデオは潰れそうな店が映像に多く出てきて、今回、超おいしそうだった(笑)。
細川 : そうなのです。サイトを見ても、上のほうにはちょっとおじいちゃん、おばあちゃんがいるのですけど、途中からなんか普通においしそうなのがブワーッとなっていたりして、グルメ。「おいしいお店をPRしてください、アピールしてください」という自治体からの要望はどこの地方に行ってもあるのですけど、多いんですけど、その見せ方としては素晴らしいと思いつつ、まさに初年度の時の価値を転換した感じとちょっと。
橋田 : すごい嗅覚というか、匂うというのは大切なことですよね。
大八木 : いい意味で、なので本当にIPになったのじゃないかなっていう、ポジティブな意味で。
橋田 : 進化した結果みたいな。
菅野 : 全然いいことですよ。
細川 : 世論形成したところで褒める。もちろん素晴らしいのですけど、褒めるよりはプロモーションのほうがいいのかなと思いました。
栗林 : 僕、いつもオーガニック再生かどうか、めっちゃ見ちゃうんです。やっぱり今回はアドが多いなっていう印象でした。それが悪いというわけではないのですが。
イム : もはや普通。スッと受け入れられちゃうから、そんなに変わったことじゃないなって僕、思っちゃっているので。そんなことないですか、まだ世の中的にも。
細川 : 私も今まで存在しなかったロールモデルと言っているのが、ちょっと言い過ぎというか、こういうカミングアウトとを表明して働いてきた先達は、いっぱいじゃないけどちゃんといると思うので、こう言い切るのがちょっと誇大エントリーシートな感じがちょっとして気になりました。
太田 : 私は結構、これをポジティブに応援したい部分がいくつかあると思っていて、一つは就活生と髪みたいなことでずっとテーマをやっている中では、ちゃんと息切れずにまた新しい課題を発見したなと。LGBTQは社会人になったり、特に広告業界ではだいぶ全然普通の存在としている環境だけど、就活というタイミングに素のままの自分、本当の自分を偽って、たぶん多くの人が受けているんだろうなというのは勝手に共感。そうじゃないのかどうか分からないですけど勝手に共感していたので、その課題発見というところが。
南 : Twitterでトランスジェンダーとかトランスヘイトと検索していただくと、自分はそうではないのに泣きたくなるような罵詈雑言が本当にたくさん出てくる。新しい潮目に入っているというか、1回認知が取れてきたのだけど、それによってこの1、2年、またヘイトがすごく湧き出ているなという感じがしている中で、素晴らしいキャンペーンだなと思いました。
細田 : たぶん「あら」を捜そうと思ったらいろいろあるでしょう。いくらでも揚げ足を取ることはできる。けれど、取り組む勇気は賞賛するべきだと思いました。やっぱり就職って一番抑圧されたタイミングですよね。良くも悪くも日本社会の一番古い部分が残っている。そこから目を逸らさずにブランドとして行動をしたことにまずは拍手を送りたいですよね。
栗林 : 僕、すごい評価したいところとそうじゃない点が一つずつあります。一つ目は、賛同企業が1000店を超えた。ヘアサロンが1000店を超えたって、ものすごい仲間づくりとして、賛同数としてすごい結果。それはメディア露出とかもちろんすごいけど、それ以上にそのユーザーたちが本当に意向をみせるそういうメッセージが出せるというのはすごく正しい。ただ、アドかどうかみたいなところは、僕の中ですごく大事で。
なぜかと言うと、かなり長いものをアドで見せたときに、最後まで見てくれる人は本当に少なくて、応募資料に再生数が出ているけど、数十万人いっているかどうか。だけど、それに対してものすごいアド費用をかけて再生しているので、コスパで言ったら、例えば1人につき500円とか1000円という感覚になっているのが、僕はすごく気になります。
橋田 : 面白い視点ですね。paid or notというところの。今、栗林さんがそこの推定をしているのは、「いいね!」数から逆算みたいな感覚。
栗林 : 基本は「いいね!」数で、再生数に対して0.1%以下の「いいね!」だと、僕の中でアドの可能性が非常に高いといつもみなしていて、今回だとそれが0.01とか0.001ぐらいの比率だったので。
南 : これは意見じゃなくて純粋に疑問というか、予算がある会社なんで、アドで札束チョップで、この価値観を出していくというのも1個にはあるのかなと思って、その点はどうですか。
栗林 : 僕もすごいそれ思っていて、このやり方って強者の戦略だといつも思っているのです。それは決して間違っていないし、正しいと思っているのですけど、賞として示唆を示すときに、必ずしもみんな真似できるものになっていないときもあるなと思っているというのはあります。
太田 : よく海外のPR系の審査であるのが、本当にもっともっと現実主義者のPRの人は、ペイドが入っている瞬間、「こんなもん全部アドキャンペーンだ」と言うのですけど、最終的に世の中のパーセプションが変わっていくんだったら、私は別にタイアップでさえいいと思うんですよね。タイアップしてもいいし、広告をバンバン打ってもいいし、その結果が変わっていればいい。ただ、自発的な対話がこれはそんなに起こっていないから、今回はなんか妙だったなと。
菅野 : 今回は、誰がどう変わるべきなのかというのはちょっと分かんなくて、自分らしい、自分のしたい髪型をするということで言うと、この方々が変わるのか、それとも面接する会社が変わるべきなのか。賛同するのが本当に美容院なのか。変わるべきはもしかして、就職活動を受ける新卒採用している会社の8割がそれに賛同し、自分らしい髪型をする人に対して、そこに対して例えば就職の採用に関する基準として、自分らしい髪型をすることを許容するというふうにみんなが言うというのだったら分かったのですが、何が誰にどう賛同していくかというプロセスがちょっとまばらな気がした。
太田 : これに関して言うと、#PraidHairとか、もともとなんとなくみんなが知っているような社会的な潮流とかに乗って、どうブランドにマリッジさせるかという話に対して、まだ見えていないけど、すごくくすぶっていた問題の発見と、それでブランド自身がそこに対してどういうふうに存在価値を発揮するのかというところがすごく上手で、一人一人孤独に戦っていた人を、この一つのキャンペーンでちゃんと結び付けあって、すごくいい日本になりそうな印象を受けました。
尾上 : 僕は、これはもう全然素晴らしいと思っていて、特に何も言うことはないという感じなんですけど、PRかプロモかの差って何ですかね。それを伺いたいなと。
太田 : 合意形成みたいな話でいったときには、介護する側と介護される側。本当はオムツを履きたくないお父さんと、できれば履いてほしい娘みたいなことを、オムツと言わずにパンツと明るく言うこと。あとはパーセプションとして、オムツを履くって本当に人として終わりということよりも「明るい老後の一手だよ」というふうに、その辺のパーセプションを変えてきているところはまさにPRだなと。
橋田 : シンプルに言うと「オムツではない。パンツである」がパーセプションチェンジとも言えるのですかね。つまりイメージも変わっているということだとは思うのですけど。
村山 : PR文脈では、この先のパーセプションチェンジも重要で、22年以降も見たいなという気になりました。
嶋野 : プロモーションとしては本当にすごくいいなと思いました。やっぱり買う立場だとしたときに、自分の親のものを買うときに、こっちだと買いやすい。気持ちよく買えるなとか、楽しんで買えるとか、そういう消費を促すプラスはあるのですけど、ふと一点、PRとして考えたときに、きれい過ぎるなと思ったんですよね。
介護というのは下の世話とかをやって、いろいろ見たくないところを見て、見られたくないものを見せられている人がいる中で、ただ純粋に言葉で、オムツじゃなくてパンツというところだけでスルッといけるかなと。
橋田 : 「#常識をはきかえよう」というハッシュタグの下に、たぶんオムツだけじゃなくて、介護を語っていこうという、たぶん姿勢はもう出し始めているということだとは思っているのですけども。
細川 : 事実として、オムツじゃなくてパンツと言ってくれるようになって、尊厳が保たれた的なこととか、今まで履くのを嫌がっていたお父さんが「あのパンツを買ってきてくれ」と言うようになったみたいなツイートとか声はファクトとして寄せられている。
大八木 : 今の話はPRかどうかという話以前に、その当事者の人たちが無視されていないことが大切。僕もこれを履く前提にもう立って自分事化しているので、オムツだったら履かないけどパンツだったら履く。これがやっぱり大きいパーセプションチェンジで、それはPRという観点でも当然、良いと思われました。僕らの国というのは超高齢化社会がもう目の前にあるにもかかわらず、政治主導ではなかなか何かを動かしていけないという中で、民間だとか広告制作者が志を持って、こういうのをつくるというのはとても尊いと強く思います。
石下 : 特に「オムツからパンツへ」というのでも十分パーセプションチェンジできているのと、あと押さえの「もっといいパンツになる」というコピーも本当に素晴らしいなと思いました。もう次の一手にも進んでいるというか、もうパンツであることは当然で、さらにそのよさをもっともっと進化させていくという企業の意思がすごく見えていました。
イム : 率直に最初、これを見たときにすごく感動した。最終的なゴールとしてずっと継続的にやってきていて、それをエモーショナルにやりつつ、被災者もそうだし、被災されていない方の感情も全てちゃんとケアしながら非常に多面的にすごく考えられた、そしてそれを事務的ではなくて非常に情緒的に、あるいは感情的にうまくまとめて、毎年忘れない日にしていこうというところにたどり着いていた。
小島 : この先も3.11は特別な日になっていくと思うのですけど、それに加えて岩手県という被害がすごく多かった県民だったり県が、オフィシャルにそういうものを「大切な人を想う日です」と1個上乗せてして言うことに、県としての姿勢だったり、そこと暮らしていく新聞社としての姿勢が表れていた。「そういう目的で制定した日なんだよ」と教えられる子供たちもそうなっていくのだろうという妄想が広がって、いいPRだなと思いました。
大八木 : 僕は東北出身だからかもしれないですけど「県民の日に制定しないと、みんな忘れちゃうの?」ということに逆にびっくりしちゃって。終戦記念日とか原爆の日とかは、そういうルールとか制度が守らなくても当然全員知るべきだし、100%知っていると思っているので、わざわざ県民の日を制定したということを評価してという態度はいいのかなというのは、PR的な視点で見ると思った。
南 : 風化させちゃいけないという日だということも悲しいし、それで落としどころは県民の日なのだというのが、ちょっとキョトンとしてしまったというか。例えば、東京大空襲じゃなくて、関東大震災の日が防災の日みたいになっていて、本当に東北の人はまだ忘れていないけど、それ以外の地域の人が忘れているとか。あるいは被災した人は忘れていないけど、それ以外の県内の人が忘れているとか、いろいろ分断もあると思うのですけど、みんな事化していくときに、それがよかったのか疑問が浮かびました。
菅野 : エントリー資料のこの文章を読めば読むほど、岩手県の有志団体が請願した時の名前は「岩手県民の日『大切な人を想う日』にすることについての請願」というのが正式名称なんですけど、議会で採択された後は条例の名前は「東日本大震災津波を語り継ぐ日」という名前に変わって採択されていて、条例を見る限り全て名称は「東日本大震災津波を語り継ぐ日」になっていて「大切な人を想う日」は採択されていない。たぶん、議会で「分かりやすくしろ」とか、そういうことになっていないかという心配をしているのですけど、どうですかね。
太田 : でも、岩手日報は少なくともそのスタンスで毎年報じるのでは?
大八木 : 何を僕たちは見て感じるかという話で、やっぱり語り継ぐって、それは語り継いでほしいし、被爆者の証言とかもそうですけれども、それは当然メディアがやるべきことであったり。
嶋野 : 新聞社さんが震災以降の毎年の記事にでてくるワードの変化をマッピングするページをつくっていて、それを見ると、毎年確かに地元紙でも「震災関連」の記事は減ってきてはいるそうです。それを思い出すことにやはり意義はあると思います。
大八木 : ただ、本当に一方でアクティベーションとしてとか、PRとしてやっていること自体は素晴らしいという上での僕のさっきの感想だということは、一応付け加えたいなとは思うのですけど。
菅野 : 名前が変わっちゃったのはちょっと残念だったのじゃないですか、本人も。
イム : NHKの映像を見ると「大切な人を想う日」と書いていますよね。
菅野 : それは運動を紹介しているからだと思います。
嶋野 : 固有名詞ではなくてということですね。
石下 : Twitterってネガティブなことのほうがつぶやかれやすいという傾向があると思いますが、そこをちゃんとうまく突いていて、みんながつぶやきたくなる、駄言を吐き出したくなる気持ちも突いていていて、さらにそれをTwitterで終わらせずに書籍化して、駄言と親和性の高い偉い方々に配ったところも含めていいなと思いました。
大八木 : 日経が出したことにとても意味があるように思います。メディアって、ここで取り上げられているような非常識な言葉とかも載せなきゃいけないじゃないですか。そのいたたまれない思いが「早く絶版になってほしい」というメッセージになっていて。本当に素晴らしいと思っています。
南 : 意思決定者に配るところもめっちゃ日経らしくていいなと思いました。ハフポストも同じような辞典を作れると思うのですけど、やっぱり日経だから日本企業の超キーパーソンとか、すごいオーソリティーたちとつながっているところに説得力があるというか、日経が配ってくれればというか、日経しか読まないみたいなおじさんはめっちゃいっぱいいるので「そういう人に届け」という意味でも「日経が」という主語とエグゼキューションが抜群だなと思いました。
嶋野 : 初めから本にするのがゴールだったように見えるところがあります。本当にこれを解決するところまで含めてのアクティベーションがこれに含まれているかと言われたときに、これだけいろいろひどい言葉がまだ世の中にあふれるときに、日経新聞という大きなメディアだから続けられることもありそうです。
イム : 全てがこれ、スマートというか、デザインを含めてなんですけど、中身のイラストレーションとデザインを含めて、非常にバランスがいいというか、悪い内容も入っていると思うのですけど、そんな嫌な気持ちにならずに、でも自分に言い聞かせながら読み進められそうな感じがして、すごくいいなと思ったんですね。ただ、これが価値観を変えるぐらいにワークしているのか「いや、一部の人だけだよね」ということなのか。
栗林 : 自分なりの考えを発信して、合意形成をどんどんしていくというところが、本という媒体の優れたところだなと思っていて、PRアイテムとしてそこに照準を絞ったのはすごいし、今後展開としても『#駄言辞典』というものがアップデートされていって、絶版を目指したいのにアップデートされて第2版、第3版となっちゃう逆の方向に行くと、またさらに議論が継続してやり続けられるというところがすごい正解というか、めちゃくちゃすごいなというふうに見ていました。
橋田 : きっと日経がやるということと、ビジネス、経済と言ったときに、ジェンダーギャップ・ランキングじゃないですけれども、結構、経済系は足を引っ張っているのですよね。役職者にいないとか、そういうところが。そういう意味でも絞られているところはあるのかもしれないですね。いったん切っ先を強くしてあって、PRとか、Twitterのテーマとかも集めやすくなっているとか、そういう作戦もあったのかもしれないなと思います。
栗林 : 駄言を駄言だと認識できた時点で、すごいパーセプトチェンジが起こるんじゃないかなと思っていて。気付かない人はこれが駄言だとも気付いていないと思ったんで、それを可視化するのはすごい価値があるので。
大八木 : そう。まさにそこのポイントが僕はこのクリエーションのすごいところで、これを駄言だと思わない、「何がこれ面白いのだ。普通じゃないか」って思うっていう。そこの恐ろしさが一番、僕はクリエーションとしてグサッときました。
三浦 : PRという概念で捉えたときに、生活者だけじゃなくて、横並びのいろいろな企業を巻き込んだ。素材の開発がいろいろな企業とのアライアンスを組める。アライアンスを組んだこと自体が、社会へのメッセージになっているというのは、面白い。例えば、飲食店に提供するということが、飲食店がウイルスに対して、向き合っていくということの証明になっている。そのアライアンスが単なる利益獲得行動じゃなくて、社会へのメッセージ表明になっているというのが、ものすごくPR的だなと思いました。
栗林 : その先にある23ブランドというところが、より見据えているものとして素晴らしいなと思っていて、ブランドと組むために自分でブランドを立ち上げるというのが、見たことないやり方でめちゃくちゃすごいなと思いました。あと、アートディレクションが全体的にものすごく美しくてあの時間でここまで完成させてくる進行力とか、ものすごく評価が高いなと思いました。
石下 : アパレルで、こういう繊維商社が前面に出てくることって普通なかなかないんですよね。最終的な商品にもあのロゴが入っているおかげで、これをきっかけに繊維商社ヤギを知った方々も多いと思います。もちろん大手のアパレル企業はたぶん知っていたと思うのですけど、すごい広がったなと思うと、私たちの仕事がここまで拡張できるんだなと、また希望はちょっと湧きました。
大八木 : 取り組みとして素晴らしいです。例えばゴアテックスという概念はもう世界中が知っているものになって、このVIBTEXはそういう文脈だと思うのですよね。23ブランドというのはすごいという考え方もあるけれども、23ブランドって、どれぐらいに届いたのだろうというところが不透明なのが、僕は普通に審査をしていて知りたいなと思ったところです。
嶋野 : 決してパブリシティだけを狙うのがPRじゃないとも思うので、どことリレーションを組むかというところで、ブランドと組んだという意味でのリザルトは取れていると思います。特定のターゲットに対してちゃんとリレーションが取れているという意味では、まさにPRのお作法がしっかりしていて、評価はできるんじゃないかなとは思いました。
菅野 : うそもついていないし、きっと悪いこともないなと思うのですけど、ハッとさせられるみたいなところが強くなかった感じはやっぱり。
尾上 : ビジュアルの中に、これがどれだけ効果的なのかという印象があまり見えてこない気がしていたのですね。ゴアテックスだったら、こういうレイヤー機能だから、こういうふうになりますとか、ヒートテックだったらこうなりますって、結構パッと分かって効きそうだなという感じに対して、どちらかと言うとそこよりattitudeと言っていますけど、attitudeで乗り越えられないものじゃないですか。ウイルスとか危険なものだと。そこをもうちょい手厚く言っていたほうが、よかったのかなと思っちゃったりしました。
三浦 : 尾上さんの話を聞いて思い出したんですけど、たぶんCovid-19に対する抗菌機能が怪しいと思ったのですよ。なんで、ちょっとモーメントのかいがたが荷が過ぎないかなと思って、PRとしては素敵なのですけど、今このタイミングで評価するのはちょっと難しいのかなと思ったという、自分の思考当時を思い出しました。
村上 : あんまり湿っぽくなく、別府をとにかく何とかしようというのを明るくやっている感じで。
細川 : 私もこれはコロナの中で、ちょっと深刻であったり落ち込んでいたりする中で、ユーモアを持って、その空気を変えようとしているのがいいなと思い、かつ成功している。こういう笑える商品で、ちゃんとでも地元のものと結び付いているので。あと、普通にこのニュースに接していて「さすが別府、見たよ」みたいな気持ちになっていたので、成功しているのではないかと思っております。最初に「ブラタモリ」を持ってくるのはずるいなと(笑)。それは余談です。
小島 : 旅行するときとかに、旅館側も観光地も来てほしいけど、結構がっつり対策の話であったり、今でもそうですけど「うちはこういう対策をしています」ということをちゃんと伝えなきゃいけなくて、それは仕方ないのだけど、そこを明るく伝えるところがすごく向こう側の歓迎感というか、行く側として、すごい安心感と旅行のワクワク感を損なわずに両立して伝えてくれていて、それがしかも面白いから観光の誘致にもなっているみたいなのはすごく素敵だなと思っていました。
橋田 : もう1回緊急事態宣言に突入する前の、なんとなく緩和されたような雰囲気の時に、いいトーンで出せたということはあるのかもしれないですね。だからこそメディアがちゃんと取り上げていたというところもあると思います。
栗林 : 僕はこれのミニマムさがものすごくいいなと思っていて、観光PRって、別府だと昔、温泉の遊園地を造ったり、各所がいろいろなPRムービーをかなりしっかりお金もかけて作っていたというイメージがすごくあったのですけど、これはその中でもめちゃくちゃミニマムな、お土産的なもの。しかも、数を減らすだけという最小限のアイデアで最大の効果を出せることを証明した、いいアイデアだなと思っていて、汎用性が高いなと思いました。
Dカテゴリー(ソーシャル・インフルーエンス)
橋田 : Dのソーシャル・インフルーエンス。新しいカテゴリーですが、ブランドのために作られたソーシャルメディアやデジタル上のコンテンツの優れたクリエイティビティや美しい設計とか、その拡散力のようなところを褒めようというカテゴリーになっています。新しいカテゴリーで、シンプルな定義になっているので、これを皆さんと応募された仕事を見ながら、いろいろ定義を決めながら進めていきたいと考えていました。
このカテゴリーでは、広がったという拡散力がないと、リザルトがないと結構厳しいなと思います。ただ、数だけではなく、あるターゲットに絞り込んだものでもいいとは考えていました。
尾上 : 全体的にふざけた感じがすごくいいなと思います。結構マヂラブが好きでラジオを聞いているのですけど、開発に当たって一緒にやっているところと、併走しながらネタとかを考えたり。ラジオのコーナーで、バグがあるってきて、それに対して怒ってから始まったりとか、この人がやりたいことと併走しながら、みんなを巻き込んで大きくしていくという手法が、ソーシャル・インフルーエンスとしては評価できると思います。
橋田 : ファンに刺さるメディアであるラジオを起点として、ソーシャルで拡散させるのがとてもよくできた仕組みですね。
栗林 : シェアしたくなる画面になっているなと思っていて、よく考えたら確かに素材がマジでぶっ壊れていていたり、ミニゲームがいっぱいあるんですが、全部設定がよく分からないものだったんですけど、だからみんながシェアしているなというところが、すごくインフルーエンス部門にのっとっているなと思いました。
関戸 : 昔の電気グルーヴのグルーヴ地獄のアップデート版みたいな感じがして、吉本興業が芸人の所属しているアーティストのB面を伝えるための新しいアプローチの方法なのかなと思いました。
石下 : ソーシャル・インフルーエンスのカテゴリーとして、ファンの中にインフルーエンスするのもすごく重要だと思います。野田さんのTwitterフォロワー数24万人の中で、ゲームが7万本売れたというのは多いですよね。
太田 : 基本的に今のみんなで作るゲームの部分は、さっきのベセルとは違う、ちゃんとコアがあっていいのかもと思う一方で、この人はもともと自分でクソゲーをプログラミングするという強みを持っていたなと思って、それをさらに広げたということだろうなと単純に考えてしまったから付け切れていなかったですが、みんなの意見を聞いてちょっと上がり目でした。
村上 : こういう商品をあえて猫ちゃんでやることで商品のよさがより伝わって、猫ちゃんに対してもいいことをしていて、それが広がっていってという割とシンプル。ひねりはありつつ、でもシンプルで素敵だなと思いました。
村山 : 私も実家の猫で「#とろねこチャレンジ」した人間として、これが数字として出ているということが強く注目されるポイントで柔軟剤は結構問題を抱えているとも言われていて、香害という、香りが強すぎて柔軟剤でアレルギーになってしまう人、その香りでふらふらしてしまう人がいるという話も言われている中で、無香性ということと、無香性という価値を猫という圧倒的なメディアに載せて伝えたというアイデアがいいなと思いました。
菅野 : 猫は、ソーシャル・インフルーエンスの世界では王様。ただ、広げていく手法としてはよく分かったという感じなのですが、何となく印象に残るのは猫ばかりという感じがして、ブランドとの接着が弱い気がしました。
細川 : 確かにブランドの記憶が全然残らないという、このハミングLINNE、そこが惜しいというか、自分だったらどんなハッシュタグにしていたかなとか、もう少し柔軟剤にかけたコピーにしていた気がするなとか。
橋田 : ソーシャルのコピーは、商品にしっかりつなげた方がいいのか、離した方がいいのか。ソーシャルキャンペーンではいつも迷うポイントですね。商品に寄せた結果、広がりませんでしたみたいなことが、この世界で待っていることがあります。今回は、この接着点を無香でふわふわのタオルと猫という距離感において、「とろねこ」を選んで結果を出したのは評価できるかと。
南 : 保護猫の何かやりたいとか、社会貢献活動をしたいと思った個人が、一人一人で動くのはみんな忙しいし大変な中で、みんなの代わりに一括でやっておくよということを、企業が担っていくのはすごくいいなと思って。なので、自分は逆にブランドとの接着があまり気にならなくて、一つの花王が見せている社会貢献の仕方というか、一つのあり方だなと思って、いい得点を付けました。
石下 : プレゼントキャンペーンが膨大にある中で、全くお金を使わず応募者にとってもシャープさんにとってもうれしく、その様子を見守るユーザーにとってもお得な情報になる、みんなが幸せな気持ちで広げたくなるような構図になっているところが、いいなと思いました。
三浦 : この2年間ぐらいのCOVID-19にまつわるいろいろな問題や社会情勢の変化の中で、Twitterのリプ欄をメディアにするということが、僕は新しいなと思ったのです。武井壮さんが飲食店、俺のコメント欄に宣伝してくれればリツイートするからと、ある種問題を提起して、そのツイートのコメントにぶわーっとぶら下がっていく、コメントが付くとそのツイートは再表示される。ニュースメディアというものの力がおしなべて弱くなってきた時代に、Twitterのツイートを、リプ欄を使うことによって新しいメディア化していくという技術が1個ここで確立されたのかなと思って、よいなと思いました。
細田 : 影響力の設計という面で見たときに、最初小さな善意から始まって、その善意がどんどん大きくなって、ユーザーがその善意を広げて影響力になるって、このドロドロとしたTwitterの中でこれだけいいムーブメントを起こせるという感動的な流れもあるわけです。シャープさんはソーシャル上の企業人格の付け方がすごく上手だと思うのですけれども、変に振りかざしていないし、こんなすごいことを始めますと振りかぶってもいなくて、せめてできることとして、こういうことをしますという二つの構造ですかね。地の文と広告の部分、この二つのバランスもすごくいいなと思いました。
嶋野 : 例えば「#ふんばる飲食店さん」とか、ハッシュタグを付けてくれたほうが、お店を応援したい人からしたら一覧性があって検索できたり、本気で応援するのだったらそういうものがあったほうがやりやすいと思ったりはしました。
小島 : この「フォローもリツイートも不要です」が、すごくいいなというか、本当に飲食店さんにあげたいからやっていて、ハッシュタグを付けて飲食店がうちはこういいますというのは、気恥ずかしいというと変ですが、アカウントに対してリプライするのは本気でやっているよ感が飲食店側も出るなと思って、そこの誠意、誠実な人たちの輪っかの中でやろうとしたのではないかという感じは、ちょっとしていました。
大八木 : 超スモールバジェットのプレゼントキャンペーンというカテゴリーにはめたときに、とても素晴らしいですよね。そのように褒めることができるようになった事自体が、この部門ができたことの意味で。この気の抜けた感じ、本当に5台しかあげられない、応募条件にフォロー&リツイートがないというのが、プレゼントキャンペーンとして新しいです。広告は、強いからいいのではなく、この弱さも含めて個性であるというか、光り輝くなという、すごくいい例だと思います。
細田 : 大八木さんが言っていたようにこのカテゴリーの「物差し」がなければ、注目することができなかったでしょう。「影響力は資金力ではない」ことを教えてくれる仕事です。5000台配れる会社のほうがいいのではなく、5台で5000台よりも話題をつくることができるし、ローバジェットでもツイート1個でこれだけの影響力が持てる。それこそがクリエイティビティの仕事だし、知恵の差分ですよね。フォロワー数をお金で買った仕事ばかりが残るカテゴリーにはしたくありません。
栗林 : シンプルに僕が思うのは、Twitterでプレキャンは一つの手法しかなくなっているなという感覚があって、いいものをたくさんの人にあげてフォロワーを伸ばすのが最強というのがもう常識になってしまっていて、それが心がない世界になっているなと思っていたのです。
そのときにこういうちょっとやり方のこれだけでブランデッドになるというか、ファンができるとか、温もりがあるというところだけでも、ものすごく評価があるなと、風穴を開けるなと思っていて、単純にそこを評価したいなと思いました。
関戸 : これはあえてあまり深く考えずにいいなと思って評価しています。自分がすごく反応したというより、周りの男性陣が特にすごく盛り上がっていたような印象を受けまして、単純なパワーアップ系、ジャンプ系というか、少年マガジン系のパワーアップというのは、すごく強いのだなとあらためて思いました。
尾上 : この時期、何を広告したらいいのか、コロナ文脈とかで空気がすごく難しいなという時期だったんです。そのときに、そういうのを関係なく飲んでばかみたいに変身するというだけで何か笑えちゃって、こういうことでいいのだと思えた。ネガティブなのを、解決云々ではなく、とにかくいいところだけ見せることでみんなポジティブに変えていくみたいな、陽の部分だけでコミュニケーションするとこんなパワーがあるのだというのが、すごく元気をもらいました。
村上 : 人気でファンがたくさんいたりとか、これはご当地なので土地の皆さんの思いも詰まったこういうキャラクターを爆変させるというのが、サントリーさんはキャラクターIPとのコラボの仕方がすごくお上手だなといつも思って、絶対にキャラクターへのリスペクトのようなものを捨てずに。これをふなっしーとかもファンの方も嫌ではない爆変のさせ方をしていて、よいなーというところがよかったので、もっとご当地キャラを盛り上げたいとおっしゃるのだったら、たくさんやってあげてほしいなと思いました。
栗林 : 何がすごかったかって、脊髄反射的にメッセージを届ける速さが尋常ではなかったなというところです。このビジュアル単体で、これも記事になったりして、サムネイルだけで一気に目を引いて、実際すごく広がっていたし、あと1つは僕の中でバンパー構造がすごく印象的で、3秒普通の状態で、3秒飲んで変身するような構造だった気がするのですが、それで全部伝えられちゃうところが強いなと思いました。
嶋野 : ハッシュタグが「#でっかい元気」だけでもよかったのかなぁとかだけ、気になったぐらいです。
栗林 : このハッシュタグは、企業がブランドの伝えたい言葉だと思うのですが、みんなが発話するためのきっかけになる言葉ではないので、普通は広がらないなと思っていて。僕が見た限りリツイートキャンペーンはやっていたのですが、ハッシュタグキャンペーンはしていなかったので、ここだけ謎でした。
太田 : ハッシュタグのことは、私もちょっとだけ気になって、このキャンペーンではない「#みんなを元気に」もいっぱい投稿されているなと思いましたが、全体的にはとっても好きでした。
飯田 : もともとユーザーがやっていた行為を、ブランドがすくい上げてこのように拡散させているところは、すごくソーシャル・インフルーエンスをより生んだところなのかなと、私はすごくポジティブに受け取りました。
橋田 : プロモでも一定みんなの評価をいただいていると思うのですけれども、ソーシャル・インフルーエンスのほうが強いのではないか、プロモのほうが強いのではないかという視点でいうと、どのような感じですか。
飯田 : 雪見だいふく自体のおいしさは、確かにトーストしてのせて食べてみるというところで、プロモーションというのもありかとは思ったのですが、ただこの存在をもっといろいろな人に知ってもらって、体験してもらってというところを考えると、このカテゴリーのほうがよりフィットしているのではないかと。
石下 : 圧倒的なキャッチーなビジュアルと冷たいものと熱いものの組み合せなのに味があまり想像できないというメニューの勝利だったりするのかなと思っていて。そのメニュー力がソーシャルで拡散したポイントかなと思いました。
ちなみにテレビで、メディアで取りあげられたことは、あまりソーシャル・インフルーエンスのリザルトとして捉えないほうがいいのですよね。
橋田 : ソーシャルメディアでの拡散というところに力点を置いておいたほうが、ほかのカテゴリーとは明確な差が出るかなと思います。
石下 : 分かりました。実は、テレビのワイドショーで取り上げているのをたまたま見ていたんですが、テレビで取り上げられたこと自体よりも、メディアが取材したくなるメニューを着火点としてSNSに拡散されることまで計算していたとしたら、ソーシャル・インフルーエンスとして評価してもいいのかもしれません。
南 : なぜ人は雪見をトーストにのせるのかというばかばかしいことを大命題のように言っているのと、人に理由を投稿させるというのがちょっと面白いのかなと。
いずれにせよこれはおいしそうだし、見た目はすごくシズっているのですけれども、禁断の食べ方とか、シズル食べ方というより、なんでのせたのかというところを聞いて、投稿させたくなっているという?裏はあるのかなと思いましたが、そうでもない点数を付けていました。
小島 : Instagramは画像ベースで、写真ベースでその下にハッシュタグが付いていて、セットで見て、どちらかというと写真のほうが大事。Twitterのハッシュタグのキャンペーンをやるときは、ハッシュタグを何にするか、その言葉にめちゃめちゃフォーカスで考えてしまうけれども、その言葉を出したときにどういう画像がくっついてくるかが大事。こちらが出すのはもちろんなのですが、どういうハッシュタグにしたらどういうビジュアルがくっついてくるかを、インスタのときよりもそこをセットで考えられていないことに気付かされて、ビジュアル先行というところは勉強になるなと思いました。
太田 : めちゃくちゃ好きで、たぶん私も一生活者の感覚に共感できているだろうなと思うぐらい、一緒にこのストーリーに翻弄される。できれば次の展開まであるといいなという欲張りな気持ちさえ。
栗林 : 設計としてすごいなというのは、組み先の概念をブランドのキャラクターまで広げたこと。そこはまだまだいろいろな可能性があるのだというところを示していて、それがうまい。
何よりも、フルーツティーにキウイが入っていないという逆説的なところを、あえて広告にすることによって、ものすごくゼスプリキウイたちに感情移入させる力が、普通にやるよりも数倍上がっていると思っていて。だからみんなここまでかわいそうといって、でもかわいいみたいな感じで反応しているなと思って、そこの設計が異次元かなと思いました。
村山 : そこは単なるインフルエンサーをメディアとして捉えて、組んで終わりではなく、ちゃんとストーリーが合っているということと、そのトライアルが、チャレンジ精神が素敵ということなのかなと思いました。
ただ、そこのすごさを引き受けているのは、やはりどこまでいってもゼスプリさん側なのではという疑念はちょっと残ります。
小島 : そう思います。この施策は、文脈は合っているのですけど、ゼスプリさんと契約できてよかったねということが気になる。
例えば、何の本か忘れてしまったけど、雑誌の付録でゼスプリを付けると、転売されてしまって大完売みたなことも含めて、今後はゼスプリさんととりあえず組んで、ゼスプリさん側が嫌がらなかったらいい感じで売れます。そうなっていくのか、ゼスプリさんはと思いました。
尾上 : もう少しサントリー側の気持ちになったときに、今は、キウイが主役になり過ぎているからキウイに食われているという話だと思います。本来は出演するはずだったのだけど、キウイがないと途中で現場で分かってしまったからキウイが泣いているCMになったんですという説明がないと、今のアウトプットはキウイが泣いているCMになってしまっているのでキウイ側に持っていかれてしまっているというのがあって。
サントリー側がこの人たちを使って本来何をしたかったのか、もともとが分からないのが持っていかれてしまった理由かなと思いました。
村上 : このキャラを使うことでサントリーさん、さすがみたいなことがよくあると思うのですが、それがどのぐらい書かれていたかは気になりました。ほかのIPでコラボをやらせていただいたこともあるのですが、最終的にはこれを使ったサントリーさん、クラフトボスさすがみたいなところまでいくと、ブランドとキャラクター双方のイメージ向上みたいなところまでいくっていうところ、どこまでそれがいったのかは気になりました。
栗林 : 個人的には、サントリーは新商品を出して認知が上がって、こういう味だと分かれば、かなり目的はかなっているのかと思っています。
ゼスプリ側に何かメリットがあるのかで言うと、フォロワー数はお互いに40万弱の同じぐらいのレベル感で、かつ最後にはキウイをティーに入れるみたいなところも、ちゃんとメリット提示というか、新しい飲み方・食べ方提案をしているので、ゼスプリさん側にもメリットがあっていい組み方なのかなとみてました。
尾上 : よく企画で飯テロ的なことをやってくれと言われるのですが、それをアニメーションにしたほうが意外にそそるぞというのは、あまり考えなかったなという。施策もいろいろある中で、こういう使い方もうまいなと思っています。唯一、むかつくのはこれみたいなことをやってくれというオリエンが前に来たことです(笑)。
菅野 : 今、聞きたかったのですが、アニメにするほうが良いのはなぜですか。
尾上 : 実写のシズルは、もう出尽くしているぐらいやられてしまっていて。
菅野 : 最初に見ているときは、一回アニメにする意味はあるのかなと思って一瞬テンションが下がったのですが、報道されているのを見て実写だったら絶対にこういうふうに取り上げてくれないな、アニメにすることでみんな見てみようとなったのだなと思いました。
尾上 : しかもTwitter上で広めやすい文脈にもなるっている。「続きは現実!」でとか、いちいちうまいことを言っているなと思って。
細川 : 宮崎駿アニメの食事シーンがめっちゃおいしそうというのでダイジェストになった動画の後、アニメで家族の食事風景を描く食品会社系のCMがちょこちょこ出てきたなという中で、おいしそうなものをアニメにするだけではそんなにオリジナリティーはないかなと思うのですが、23時とちゃんと組み合わせて「続きは現実で!」としてECと組み合わせたとか、組み合わせがいいなと思います。一個何かはやったものをトレースするのではなくて、組み合わせることで人が動く例なのかなと。
栗林 : 同じことを言うのですが、僕がすごいなと思っているのは、アニメにするというのになぜ気付けたのかなというところです。今ソーシャルメディアのコンテンツの情報量の引き算が、ものすごく重要なテーマだなと思っていて、実写よりもアニメにしたほうが伸びているものは確かにめちゃくちゃあるのです。それを食にも当てはめたほうが、シズルという発見はかなり文脈をひもとかないと見つからないので巧みな技だなと、すごく評価は高いなと思いました。
太田 : なるほどそういう選択もあるのかと思ったのが、全部で10回分ぐらいのアニメをとり切って、というわけでおしまいですみたいな。Twitterはずっと続けなければいけないという前提で始めるのだけど、もしかして制作費は普通のTwitterの投稿よりもはるかにかけてフルスイングで駆け抜けるのもありなのかなと気づきました。
栗林 : Twitter投稿にフルスイングで全振りするほうがいい。
太田 : しかも短期間で1投稿当たりの制作費をめちゃくちゃかけて駆け抜けるっていう。
栗林 : それはソーシャルメディア時代の新しいクラフトの在り方の一つだなと思っていて、ソーシャルキャンペーンで設計すると、いろいろなインフルエンサーを使って、長期間盛り上げてという議論になりやすいのですが、そんなことはやらずに一撃でボンと効果を出すこともめっちゃあるので正しいなと思います。
菅野 : あまり手が込み過ぎているとみんな面倒くさがって付き合ってくれない中で、ちょうど良い案分。あと、Pale Blueという楽曲のコンセプトとの兼ね合いでうまいことやっているぞというのはすごくありました。
僕は音楽の仕事が多いのですが、予算はあまり多くありません。ファンは確実にいるのだけど、それ以上の人に届けたいという、だいたいお題なんですよね。そうなったときにファンは言わなくても買うという予測がついている中で、プラスアルファどこまで広げていくかという施策を考える上で、ソーシャル・インフルーエンスは今の時代的な予算感も含めて、ものすごく重要なプラットフォームであるのは間違いなくて。低予算の中でもアイデアがピリッとうまく効いていて、ちゃんと道具としてうまく使えている意味では、米津さんのこのシリーズは上手だなと思って見ています。
嶋野 : 「米津さん下駄」をどう捉えるのかと思っていて、これを名もなきアーティストがやったときに、みんながここまでいいと言うかどうかは分からない施策でもあるじゃないですか。
菅野 : それは僕も全くおっしゃるとおりだと思うのですが、ブランデッド・コミュニケーションじゃないですか。米津さん抜きではなかなか語りづらい部分があって、そのブランドにとって、その影響力のベースの上で企画するじゃないですか。米津さんにはこれぐらいのファンがいて、その人たちはこれぐらい動くけど、それにプラスアルファするためにはどうしたらいいだろうというときに、これが無名の新人アーティストだったら確かにこの企画は成立しないと思うのですが、米津込みで企画されるから。ブランデッド・コミュニケーションを、そのブランドのために機能する企画とすると、切り分けて評価しづらいじゃないかなと思うのですよ。
大八木 : クラフトとして僕がすごく素敵だなと思っていることを言うと、曲を聴いて世界に浸ったり、その雰囲気にちゃんと浸されていく感じ、最初ソーシャル上にブルーの画像がばっと流布する感じはきれいだなと思って。いろいろな解析をして、ある特殊な絵を見つけてフィルターをかけたら浮かび上がってくるという頃合いが、気合が入り過ぎていないのが、むしろ今回の曲っぽいのかなと。この間は大きい仕掛けだったのですが、曲の雰囲気やそもそものリコカツというドラマに合っているのかな。そういう意味での米津さんらしさはあるなっていう感じです。
三浦 : 僕が考えたことは、もちろんいいと思う方もたくさんいらっしゃると思うので議論になると思ったことも踏まえて、いいところもめっちゃあると思っているのですよ。さっき言ったコメント欄のツリーを含めてPRのメディアになっているとか、こういったものに踏み込むのもいいと思うのですが、あまりにもデリケートな問題をものすごくドラマチックに、表現としてちょっと過剰に描いているじゃないですか。
もちろん前提として日本に人種差別はあるし、日本に人種差別はないみたいなこと、言うつもりは全然ないのですよ。あると思っていて、当然それは撤廃していかないといけないし、もしそういうことから目をそらしている人がいたら目を背けてはいけないなという大前提はあるのですが、あまりにも扇情的な、人間の感情をあおるものをドラマとして作っていますよね。それによって議論を巻き起こすという、この手法をACCとして激推したらいけないのではないかというのが、僕の一番伝えたいことです。
何にしてもすごく過剰なメッセージ、すごく過激なフィクションを描けば当然、議論は巻き起こると思うのですよ。でも、それはある意味、表現におけるシャブというか、それが真ん中で褒められる業界にしてはいけないと、三浦は思いました。
逆にこれが、例えばアメリカでやっていたコリンのときはドキュメンタリーじゃないですか。あれは本当に差別を受けている人が立ち上がって、その人の人生とアメリカの物語を重ね合わせるということだから、そこに一抹の乗っかっていい理由があると思うのですが、これをフィクションでやられてしまうと、ナイキが議論を起こしたことに対しては一定の評価があると思うのですが、これが王道、これが真ん中、これが頂点という褒め方は絶対にできないなと思いました。
細川 : 難しいですね。こういう賛否両論ある議論を起こすと決めて、動かし続けるっていう。世界が変わるのなんて待っていられない、動くというところで、スポーツブランドの会社がメッセージをするのはいいのですが、単純に私はこのムービーのストーリーが真っすぐ過ぎて、あまり好きじゃないので。試み自体はいいのですが、このムービーに感じている違和感を、今はまだ言語化できていません。3人集めているところも、1人の心情に丁寧にフォーカスしてやっていたら、また違うのかな。
三浦さんも感じているかもしれないのですが、過剰に都合良く使ってしまっていると物語から感じてしまうのかもしれません。ストーリーテリングがあまり好きではありません。
嶋野 : テーマをここに持ってくるのは企業の思惑なので私が口を挟むところではないのですが、提出シートを見る限りは彼らの根底には、スポーツはこういう状況を変えるというメッセージがあったわけですよね。その課題に対しては、あのCMが機能したかどうかの判断が難しかったです。あの課題設定に対して、いまのCMだと点をあげづらいなとは思いました。
南 : 難しいですね。私自身はすごく高く評価していたのですが、描き方という意味では確かに微妙なところがあったのかなと、今、皆さんの話を聞いていて思いました。この後のナイキの女の子の赤ちゃんが産まれたらどうしようというのも、出産みたいに最もデリケートなことをこんなふうに描いていいのかなと思ったのもあって。それは余談なのですけど、確かにムービーに落としたときに、良かったのかどうか皆さんの判断を聞きたいなって感じたのですけど、テーマ設定やソーシャル・インフルーエンスみたいなところは、私はすごくいいと思いました。
本当は日本人として、めちゃくちゃもやつくのですが、正直この国は外圧でしか変われないと普段仕事をしていて思っているので、ナイキみたいな会社に痛いことを言ってもらうしかないですというのが、普段仕事をしていて見ている私の景色です。
それから、ストーリーがティピカルだと思うのですよね。はいはいみたいな。これは差別のステレオタイピングじゃんみたいなところがあると思うのですが、実際にそうなのですよね。本当にこういうふうにみんな思っていて、大坂さんが出ているのですが、実在の人を引っ張り出してくるとその人の人生が狂ってしまうぐらい、インフルエンサーではない、名もなき人がこういう差別を普段受けているという問題を可視化している意味では、すごくいいと思うし、私はしたことないよ、私もハーフの友達がいるしみたいな、I have a black friend論法がリベラルを中心に広がっているからこそ、ナイキががつんと叱ってくれたのは、私はすばらしいと思いました。
イム : 私は韓国人です。韓国の釜山生まれです。僕は15歳のときに日本に来て、友達から「おまえは本当にやばいな」と言われた瞬間にばかにされているなと思って、それぐらい文化において差を感じながら、この国になじもうとして、発音とか、朝礼のときに僕は「おはようごじゃいます」と大きい声で言っていたら、先生がめちゃくちゃ褒めてくれて。そしたら「日本男児をなめんなよ」と友達に言われて、悔しくて家に帰って鏡を見ながら濁音の練習をしていたのですよね。ここが揺れるということをね。
そうやって僕はやってきて、どこかのインタビューでも答えているのですが、僕が今この場にいることもそうだし、例えば純韓国人にもかかわらずトヨタという大企業の「.jp」のクリエーティブディレクションをやらせてもらったり。それはすごく日本に対して感謝しているし、懐が深いと思っているという前提で話をするのですけど、あのCMを最初に見たときに「は?」ってなったのです。いやいや、ここまでではないでしょうと思ったのですよね。
要は、さっき三浦さんも言っていたのですが、ものすごく極端な例を持ってきてしまったんです。例えば、チマ・チョゴリという話もそうです。今の時代、朝鮮学校にはまだあると思うし、僕は朝鮮学校に行っていたわけではないから現状は分からないのですが、確実にああいうシーンはあると思うし、もっとひどいシーンもあると思う。あるのだけど、その割合はどうなのだといったときに、随分と洗練されてきているはずであると。だから、あれをわざわざ持ってきていることに対して、あれを見て僕はある意味、だるいな、何これと、正直思っていました。
すごく極端な例を持ってきた割には、最後は仲良くなっちゃうのですよね。それが30分、1時間かけていろいろなことがあって、最初は摩擦があったけど一緒にプレイしていたら徐々に仲良くなったということであればまだいいのだけど、急に後ろにKIMと付けたり、仲間になってこんなふうになっているのを見ると、僕はすごく違和感があったのと、総じて言えるのは映像の質はすごくよくて、とてもセンシティブな話題を扱ってはいるのだけど、正直全方位に対してものすごく繊細に企画やストーリーラインを作らなければならなかったのではと僕は思ってました。そういう意味で雑な言い方をすると、まとめ方が雑だったのではないかと。
たぶんスタートの時点、要は、問題提起自体はすごく良くて人種差別などいろいろな話が入ってきているのだけど、結局あれは大きく見ていじめの話じゃないですか。いじめは特に子供世代は絶対に日本にもあるし、それは世界のどこに行ってもある話で、極端な話、外国人だからいじめられているわけではないのですよ。もっと引いてみると、外国人なのかは分からないけど、何か相手に弱みが見えたときに心が弱い人がそこにつけ込んで、それがたまたま外国人、たまたま言葉がうまくしゃべれないやつとか、たまたまできないやつを責めているシチュエーションだけど、今回のシチュエーションで言うとすごく限定的な要素を抜き出して。いじめを扱うのであれば、もっとフラットに見えるようにすれば良かったのだけど、チマ・チョゴリだ何だのと出てきてしまったから、こういう問題になってしまっているのではないかと思います。
あと、最後に言いたいのは、スポーツをやったら這い上がれるかといえばそうでもないから。ナイキはそうやって持っていくべきだと僕は思うのですが、ただ最終的に残るメッセージとしては相手と自分を比べて弱いところにつけ込むことに対してどうなのだと。
もう一個言えるのは、外国人やいじめられる側はそんなに弱い人ばかりではないと思うのですよね。だから、ああいう子たちばかりではなくて、確かにいじめもあったのですが、僕みたいに家に帰って必死こいて、鏡を見て歯ぎしりしながらやってやろうと思ってやっている人もいるわけだから。そういう意味では、すごく型にはめてやっちゃったからこういうことになってしまっているのではないかと。ムーブメントを起こしているのは事実だし、こうして会話ができるのはすばらしいと思うので、総合的にはいいのかなとは思ってはいます。
三浦 : 南さんに聞きたいというか、ジャーナリストの視点で見たときに、こういうセンシティブな問題を企業がマーケティングの中で踏み込むときは、どこまでやるべきだとか、どういう視点を持っていらっしゃるのか、このメンバーで南さんのお話をお伺いしたいと思いました。
南 : ナイキはずっと人種問題などをやっているので、一貫性は一番見ているところではあります。ナイキ自体も炎上を繰り返して少しずつ価値観をアップデートさせてきて、今では従業員の人種ベースの比率を全部公開している会社で、さっき三浦さんがおっしゃっていた例もいろいろありながらのこういうものなので、私は評価してもいいのではないかとは思います。答えになっていますか。
三浦 : ブランドとしてのウォッシュではない継続的なコンシステンシーと質的なファクトというか、リアルでやっているという両方が必要ということですよね。
南 : そうですね。このレベルになるとセンシティブであればあるほど、もはや経営レベルというか会社がこう思っていないとこういうことは言えないと思うので、社長が言っていることと一致しているか、それを言い続けているかは見るようにしています。
菅野 : これに関しては二つあって、一個はこのテーマ自体を企業の広告というコミュニケーションの中で扱う是否と、もう一つはそれをどう表現していって、どう投げ掛けたかということでいくと、一つ目の扱うべきかどうかだとか、このテーマがどうだということに関して言えば、さっき嶋野さんが「それは会社が決めることだから僕が言うことではない」と言っていたのですが、僕は判断として、素晴らしいと思いました。
僕はあまりこういうことを言わないようにしているのですが、テーマとして扱うのはすばらしいと思うのですけど。日本にはまだ間違いなく差別はあるし、是正されるべきだし、たぶんアメリカに比べて今まで日本はそういうことをはっきりと明示されたことがなくて、言われたら痛い気持ちになるのもそうだし、僕だって中高の一番の親友は在日の人だし、一番優しい友達はそうだし、そういう気持ちは自分の中にないと言いたい気持ちはあるけれども、そういう状況がこの日本にあることは知っていながら何もできていないことを含めて存在することは認めたほうがいいし、そういうことをコミュニケーションで触れていくことは大事なことなので、扱うことはとてもいいと思うのですけど。
でも僕は圧倒的に、どう表現したか、どう投げ掛けたかの部分が下手というか、すごく嫌だったのです。これはみんな気持ちよくないというか、気持ちよくなりたいわけでもないのですが、誰もエンカレッジしていないと思ったのです。
つまり今までうまくいっていないときもあるし、うまくいっているときもあると思うのですが、繊細なテーマに対してグローバルのナイキがしっかり企業としてメッセージングしていくことにはチャレンジしているではないですか。例えばコリン・キャパニックを取り上げると言ったときも、「何かを信じろ。全てを犠牲にしたとしても」というコピーと共に投げ掛けていて、それがなぜナイキはあえてこの人を取り上げて応援しようと思っているかといったら、自分の全てを犠牲にしてでも信じたいことがあるのだ、その気持ちを応援したいのだということをしっかり明示していて、それはエンカレッジしていると思うんです。
でも、今のCMアプローチで言えば、例えばイムさんもそうかもしれないですが、在日の人ももしかしたら嫌な思い出を思い出すだけになるかもしれない。場合によっては、すごく極端な例だけが持ち込まれているように見えるかもしれない。日本人にとっても嫌な状況だけが起こっている国ということが、理由もなく突然サッカーをやれば仲直りみたいなことが起こっていることがフィルム上で描かれることによって、誰かの行動や気持ちが変わったり前向きな気持ちになったり少し励まされたような気持ちになったり救われたりという感情よりは、嫌な現実が?覆い立って、サッカーボールで仲直りという無理なエピソードが置かれていることに、すごく嫌だなと思ったのです。だからクリエーティブが、すごく良くないと思ったのです。
そう思っていたのが消費者としての僕だったのですが、今回ケースフィルムを見て、それに対して賛否両論が巻き起こったことに対して、これを受け入れられない人たちがいたという言い方をしていたのだけど、違うよ。受け入れられない人たちがいたのじゃなくて、おまえのしゃべり方が下手なのだよと頭にきちゃって。繊細ですごく大事なテーマに初めて触れるのであれば、もっとクリエーティブがいいものをやってくれよ、おまえたちが下手だから炎上したのだろうみたいな気持ちにちょっとなった。
もちろん中には本当に単純に差別的な発想の下に、日本人がまるでクソみたいじゃないかという傷ついた感情の下に悪く言っている人もいる。受け入れられない人たちがいたのも事実ですが、もっとうまくやれよみたいな気持ちのほうが。コリン・キャパニックのときも炎上したじゃないですか。それと同じように、ほら、繊細なテーマを扱うと炎上するのだよ、受け入れられない人たちがいるのだと受け止めたんだ、それは嫌だと思って、それが僕の気持ちです。
たぶん炎上はするというか、議論を呼び起こす意味ではいろいろな意見が噴出すると思う。それがいい炎上なのか、そうではないかで言ったら、みんなが傷ついたなという感じがしちゃって、誰かがすごく励まされるということをもった投げ掛け方があったのではないかと。少なくとも本国のナイキだったら、もっとうまい伝え方をしてくれるのではないかと思っちゃったのですよね。
イム : あおりになっちゃったのじゃない?それが伝わっちゃったのだと思う。あおりという表現はあまり見掛けなかったのだけど、ずっと整理していたら、これはあおるつもりはなかったけど雑すぎてあおりになっちゃった。何も、ソリューションも提示していないでしょう。
南 : 確かに広告表現されている方たちと同じで語っちゃいけないかもしれないのですが、メディアで働いていても、特にこういう話題はアジェンダセッティングで良かったときから時が進んでいて、たぶん3~4年前だったら、この目に見えていない差別が日本にあったというところで「一石を投じた。」だったかもしれないのですが。それでも表現の部分はあれですけど、普段も仕事をしていて、例えば4年前ぐらいにハフポストで生理のことを同僚と話そうみたいなキャンペーンをやったのですけど、私がやったキャンペーンではないのですが、そのときはすごくいい石を投げられたなと思っていたのですけど、今だとそれでは駄目で、もう知っているよということで、そこからどうしていこうということまであわせて提案していかないといけないよねと、普段、社内でもよく話しているので。今の皆さんの議論を聞いていて、めちゃくちゃ勉強になりましたという感想でした。
栗林 : 僕も一つだけ。今、皆さんがおっしゃったことは、クリエイティブ表現でのマイナスポイントは確かにあるなと思いつつ、それでも僕がこの賞として評価したほうがいいなと思うことがあって、何かというと、この賞としてのこの施策の持つ一番の価値としては、多少のネガティブな意見や敵が発生したとしても、ブランドのスタンスを保ち続けることは重要なのだというメッセージが、僕はすごく今の業界で大事だと思っていて。なぜかというと、当たり障りのない丸いことを言っても誰も響かなくなっていて、ちゃんと人格を出したり、ちゃんと意思表明しないと深いコミュニケーションができない時代になっていると思ったのです。
海外だとそういうことはかなり進んでいるのですが、日本だとほとんど見ないと思っていて。もちろん最近は増えてきているのですが、ここまでストロングスタイルで、これだけ議論が勃発しても一切引かずに残し続ける、メッセージを出し続けるというスタンスは、僕は称賛したほうがいいかなと思って見ていました。
皆さんも言っているようにリプライ欄は厳しい目の、偏見を持っている人たちが可視化されているところになったことは間違いなくて、僕はそれを見てパーセプションチェンジがあったので、多少過剰な表現だとしても僕らが想像できなかった潜在的な問題を、みんなが想像できるようにしたことにはすごい価値があると思いました。
本当はもっとこれをユーモアも持って明るくしたり、次の行動を示した上でのコミュニケーションが完璧だと思うのですが、まだ日本の広告業界はそこまでのフェーズに達していない気がしていて。ちゃんと自分たちの主張、人格、ブランドスタンスを出せるようになった上で、もっとユーモアやアイデアを持ってコミュニケーションをしていこうよというのは、さらに次のフェーズにあると思ったので、順当な進化として、まずこの施策はたたえるべきだと思いました。
村山 : 私はお話を受けて、ものすごくそうだなと思いました。皆さんのおっしゃるような表現・クラフトに対するハテナを感じつつ、でもさっき南さんの言っていた「外圧がなければ変わらない」問題。ナイキがいなかったら、このお話が扱われるのはたぶん何年も後だったのではないか。2020年、日本にこの話が投げ掛けられ、ソーシャルで会話されたことの記録として、残っていてほしいなという気持ちでした。
尾上 : 僕も高い点を入れていたのですが、なんかザワザワするのは自分の中にある何かを見られていないからなのかなと思っていましたが、言われてみれば雑なのかというのは確かにで、そもそもスポーツでいじめを解決できるという話になってしまっているのが、まずそういうことではないだろうと、根幹から間違っていることがよく分かったなっていう。
かといって、こういうテーマを扱わないほうがいいのかというと、それは扱ったほうが良くて、タイミングの話もありましたけど、今扱うとして描き方を極端にするとそうじゃない人もいるのにという話になってしまうけど、広告は短尺で人に刺すときには、ある程度は極端にしなければいけないという難しさもあると思います。そういう短尺で人に刺して議論を生むところで終わるのではなくて、長い時間をかけるという意味での長尺でどう回収していくかという軸の考え方も両方セットじゃないといけないと思うのですが、これを検索しても今、長い時間軸で何をやっているかもよく分からなかったりして、そこら辺もセットで出てきたら良かったのかなと。
事例というわけではないのですが、ジャンプ+でやっていた「青のフラッグ」というLGBTQを扱っている漫画があるのですが、メインがLGBTQというよりは青春漫画みたいに、普通に読んでいると、結構、長いことキャラと一緒に歩んできたら、あるとき突然カミングアウトがあるというような感じで、すごくドキッとするっていう感じで、あのような課題というか、割と大きなテーマだから、いきなりバンッと言ってみんなが議論したからいいよねと思う広告脳とは違う、長い時間をかけて浸透させて変えていくというやり方ももっと探していかなければいけないのではないかとは思いました。それをうまくセットにできるといいのですけどね。
イム : 最後に一つ。菅野さんの話していることを聞いて、すごく僕は納得というか、合理化していたという、反対している人もいたというくだりですが、一石を投じたことを評価してもいいかなと思ってたんですが、いろいろと今日話をしていて思ったのは、ACCで賞を与えることは何に対して賞を与えるのですかというときに、制作者というか企画者や作り手のプライドに与える賞ではないですよね。
そう考えたら今回、これに色が付いたり入賞したときに、それを世の中の人たちがどういうメッセージとして受け取るのかをシミュレーションしたほうがいいと思いました。
僕の意思を表明すると、言いたいことはすごく良かったと。ただ、伝え方が雑で最終的に僕が思っていた感情を抱かせてしまったことも確かにあるし、途中で言い訳がましく作り手が合理化し始めている時点で、それを認めていいのだろうかという感情が生まれたっていうのが、最後ありました。それをお伝えしたくて。
飯田 : 今日皆さんの話を聞いていて思ったのが、スポーツは世界を変えるではなくて自分を変える、自分を強くするのだと言っているんだよなと思って、そこがこれの伝えたいところになってしまったんですね。いじめをなくすということではなくて、いじめは既にある。でも、それに対して自分が強くなれば立ち向かっていけるということを言いたかったのではないかと思ったので。
今、いじめというところに議論が置かれているけれども、自分を強くする、それに向かっていくという意味では、ブランドが言うべきことにはつながっているのかなと思いました。
南 : これは企業が社会運動の主体になれるかどうかという問いなのかなと。よく社会運動をされている方、グレタ・トゥンベリさんなどはそうなのですが、言っていることは正しいけど言い方がちょっとというふうな意図がめっちゃ来るのですよ。でも社会運動をしている人の言い方が良くても悪くても怒っていても、ニコニコきれいなクリエーティブに包まなくても全然良くて、社会運動の人やアクティビストはそうあるべきなので。
でもナイキは、本当はクリエイティビティをちゃんと発揮してやろうとしているはずなので、いずれにせよナイキをかばうことにはならないのですが、別のアジェンダとして企業はこれから社会運動の主体になり得るのかという、自分の中で新しく考えてみたい問いが、芽生えました。
細川 : 本当は好意的というか、自分で解釈するとフィルムが言いたかったのは、スポーツは自分を強くするというのもそうなのですが、今あるコミュニティーと違う居場所をつくってくれる力がある。狭い世界にいると、いじめを受けてしまうし居場所がないと追い詰められてしまうけど、違う世界があるのだよというのを見せてくれるという意味でも、スポーツはいろいろな可能性を持っていて、居場所になるみたいな。本当にいじめ問題と向き合うなら、そういうメッセージもナイキは発せるし、何なら居場所づくりを実際にしてあげるというのもおこがましいけど、こういう場所があるからそういう人はおいでじゃないけど紹介するとか、今、話を聞いていて、刺しっぱなしじゃなくてスポーツの可能性をもっと具体的に広げる活動ができたよなと。
そういういじめに対するメッセージもみんなに曖昧に伝わってしまっているし、むしろ石を投じるほうに力を掛けてしまっていて、みんな嫌な後味だけ残って終わるみたいな、もっとできることがあるなと議論を聞いていて思いました。
細田 : 立ち上がることを讃える審査なのか。立ち上がって転んだことを厳密に問うのか。審査会のスタンスも問われているような気がします。問題提起をして、一石を投じたことに拍手を送るべきではないでしょうか。
橋田 : アジェンダセッティングは解決アクションまで用意しなければやってはいけない、と決めつけてしまうのはよくないと思いました。環境問題はもう当たり前に言われているから、次の一手はアクションを伴わなければいけないという議論は分かるのですが、日本にとってあまり触れられていない「差別」というテーマで、解決までプラットフォームを用意しながらじゃないと主張したらいけないというのは、ちょっと酷ではないでしょうか。アジェンダセッティングすること自体が難しいステージなので。
菅野 : このテーマを選ぶことと、それをどう表現したかという二つで言うと、前半は間違いなく良かったと思っていて、後半としては表現の出し方というかメッセージの投げ掛け方があったのではないかということには変わりないのですけど、演出、プロダクションレベルの話でもないなと思っていて、すごく繊細なテーマに対してのクリエーティブディレクターなのか、プランナーなのかコピーライターだとかいう繊細の扱い方においては、ちょっと傷ついた人がいるのではないかと思って。
もともと痛い気持ちになるようなネタで、全員が賛成、全員が傷つかないテーマではないのはもちろん分かっているのですが、こういう方法しか取れなかった。イム君の言い方で言うと、あおりという手法を選んだことはフィルムクラフトの問題ではないのではないかなと。エージェンシーがちゃんと向き合うべき技術の話ではないかなと僕は思います。
どこの部分を褒めるかですけどね。もちろん最初にこのテーマを取り上げたことに対して否定する人はそんなに多くないかもしれないから、それは何点分なのか。そこは人それぞれだと思いますし、それはみんなで判断して自分の点数を入れればいいと思うのですが、僕はそこのテーマを扱っているけれど、このスクリプトに関してはもうちょっと傷つかない点を探したかったなと。ACC審査という僕らの仕事で、そこは大事じゃんと。クライアントがお題を出してくれることが多いから、それをどう表現やコミュニケーションにつなげるのかというところは、僕らの仕事の矜持な部分はあるかなと思いました。
細田 : 賛成です。WhatとHowに仕分けして丁寧に評価し発信することが、業界のためにもなると感じています。
三浦 : 建設的な議論は続いたのでしたっけ。僕の観測範囲だと、当日前後は議論にはなっていたと。僕は正直、これを炎上だとは思っていないのですよ。議論はつくったなと思っていて、それが一過性の盛り上がりで差別に対していい影響を少しでも与えたのか、ネガティブな反応のほうが多くて終わったのかは見ておいたほうがいいかなと。
先に僕の意見をもうちょっと言うと、役割はもう果たしたと思っているのですよ。議論がSNSで起きて、今日ここで皆さんが話したことも菅野さんがおっしゃったこともこの議事録に全て実名で全部載るわけですよね。それがもう一個、このプロジェクトが果たした役割だと思っていて、それを評価とか、これ以上エンパワーメントする必要はないかなと。だからこそ、この議論がめちゃくちゃ大事だなと思うのですが、南さん、どうですか。
南 : 直接的に後継のものはナイキからは出てきていないと思いますし、さっきも一瞬触れたその後のジェンダーギャップの問題で、また表現が微妙ではないかと思うような動画を投稿していたので、私も三浦さんがおっしゃっていることに賛同します。ナイキがずっと言い続けることではなくて、これをきっかけに持ち帰ってみんなが自分の場所で私たちハフポストも含めてですが、何かやらなければいけなかったと思うのです。その持ち帰りたい気持ちにさせられてなかったとすれば、そこが問題だなというのがここで議論されていることかと認識していました。
橋田 : まとめてしまうことはできないので、この議論自体をそのまま公開することが大切だと思いました。
三浦 : 議事録公開のときに「ナイキ炎上CMで激論、会議室も大炎上」みたいなあおりを付けていただくと(笑)。
尾上 : ソーシャル・インフルーエンスで言うと、さっきの米津玄師だとインフルーエンスがファンの周りで広がって外にはいかない感じがするのですが、「THE FIRST TAKE」っていう箱になったことで自分の好きなものを見て、関連で関係ない人を見てしまうところがすごいなと思います。インフルーエンスの幅がでかいという。
関戸 : 私もニーズからビジュアルまでもろ手を挙げて好きだったなというキャンペーンです。
村上 : 2次創作みたいなところも、バラエティーでパクられたりいろいろなところまで広がって、とてもすばらしいなと。私は言わないですが好きなアーティストがいてライブもコロナのせいで2年ぐらい行けなくて、やっと今年ドームツアーが復活して4回行ったっていう。ただ、ライブに行けない代わりに音楽をこうやってアーティストが届け続けてくれるのも、何となくコロナという時期もちょうど良かったのかなみたいなところも良いなと思いました。
栗林 : 二つ重要な視点があるなと思っていて、一つがこれからのクリエーティブを考えたときに継続性という視点がものすごく重要なってきているなと思っているのですね。それは何かというと、YouTubeチャンネルにあまたの企業が参入して、ほぼ90%がうまくいっていないと思っていて。なぜかというと、常に出し続けることの大変さに直面するというのですか。
「THE FIRST TAKE」はずっと大変だと思うのですが、しっかり継続できるセットでクオリティーの高いものを出し続けるワンフレームを開発したのは、ものすごく高価値だなと思っていました。
それと、いろいろなインフルエンサーを巻き込んでいくときに、その人のチャンネルではなくてこちらに来てもらうことは実はすごくハードルが高くて。普通はそのメリットがあまり出せくて、結局お金をたくさん払うということになるけど、それだと継続的ではなくて。THE FIRST TAKEは、めちゃくちゃアーティストにとってどうしたら価値になるかに向き合って、ただライブをしてもらうのではなく、これに出演することによって初めて浮き彫りになるその楽曲やアーティストの魅力をものすごくど真ん中から考えて、ソリューションにしているところが進化、革命ポイントだと思いました。
菅野 : どうしていくのがいいのか分からないのですが、これ自体が、広告主がいなければいけないものでもないというのは変ですけど、コンテンツが先行してそこにクライアントさんが乗るようなビジネススタイルもたくさん増えてきている中で、広告主、商品名という書き方に収まらないときの表記方法じゃないですか。ブランデッド・コミュニケーションと言ってしまったので、どのブランドに対しての仕事なのかなと思って、評価しようと思ったらTHE FIRST TAKEと書いていて混乱したっていう。音楽業界に対しての解決策に近いのですよね。
大八木 : 僕は今の議論がすごく面白いと思って、ブランデッド・コンテンツやブランデッド・コミュニケーションが進化しまくった最終形として、クライアントすら消えてアイデアが残り、そこに逆にクライアントが集う。今年の「絶メシ」もそうですが、そのような動きは、広告業界にとってひとつの⼤きいメッセージになるのじゃないかなと思って。
菅野 : まさにプロジェクトが先に立っていたほうが良くて、だって「絶メシ」はIPということですが、全部、判断が違ったんです。「絶メシ」はケトルという出し方をして。これが「絶メシ」という広告主という書き方もあったと思うのにケトルという書き方をしているじゃないですか。THE FIRST TAKEはTHE FIRST TAKEという書き方をしていて、ハミングは花王という書き方をして出していてと判断が違ったので、今後こういうことは増えていくのではないかなと思ったときに、排除ではなくてブランデッド・コミュニケーションとして拾っていけるように意味で言っているのですが、前向きにそれがいいことだという感じにできたらいいなと思ったので個別に。
大八木 : カテゴリーとしてIP部門というのは、また変なのですが、これから広告のビジネスをやっていく中でプロジェクトを作って、そこを価値にして人を集めてお金にしていくみたいなモデルも当然ある中で、この感じだといろいろな収益もきっと生み出せますよね。それはある意味、今年に顕著なというか、仕上がりというか、企業というよりは音楽業界そのものを広告していたり。「絶メシ」も地方創生、もっと言うと飲食業界全部を応援していたり、そういうのはすごく心強いなと。
尾上 : プラットフォーム化みたいなことですか。
大八木 : この部門でしか、そういうものは生まれ得ないというか、課題設定から生まれるすごくすばらしいクラフトという課題設定自体をした時点が新しいとか、今までないところから生み出されているからこそ、こういう仕上がりになっているみたいな、その議論はすごく面白いなと思いました。
菅野 : プロジェクトと企業の関係も反転して、プロジェクトがあってそれに企業が賛同しているという。今までは企業の下にしか起こらなかった事象が逆転することもあり得るのだなと。THE FIRST TAKEを評価するときの一つのメッセージ性として、われわれはそういうことも今後も伝えていきたいなと。
広告主も商品名も代理人もTHE FIRST TAKEになっていて、もはや何のためにというか、俺たちは一人で生きていますみたいな感じになっていて面白いなと思って。
また、ソーシャル・インフルーエンスで褒めるのもいいのではないかと思ったのです。デジタル・エクスペリエンスも褒めていいと思うのですが、YouTubeならではで、それこそ関連動画を見ていくということは、アーティストも新人デビューしてもなかなか見てもらえないのに、これだとすごく見てもらっているという。知り合いが出るから公開される時間まで待っていて見たことがあるのですが、すごいスピードで再生回数が上がっていくのですよね。本当にみんなにとって幸せなフレームだなと思ったので、あえていうなら広告業界というか、みんなを幸せにしていると思いました。
橋田 : 「THE FIRST TAKE」はクライアントと広告会社との関係性が変わっていく未来を示唆してくれましたね。