デザイン部門審査評

総務大臣賞/ACCグランプリ

作品名
守るのは、頭と地球。HOTAMET
作品概要

⽇本⼈が最も⾷べる「ホタテ」は、もっとも⾙殻が捨てられる⾙でもあります。
この⾙殻を新たな資源に変えられたら?
“外敵から⾝を守ってきた⾙殻が、⼈を守るものに⽣まれ変わる。”
そんな想いから⽣まれたのがHOTAMETです。
作られるほど、海がキレイになるヘルメットとして、新しい環境保全の形をデザインしました。

審査評

食品生産の廃棄物として大量に捨てられる貝殻。その形は美しく、シェル構造という言葉もある通り、とても強度がある。この素材の粉末を樹脂に混ぜ、貝殻型のヘルメットとして再利用したのがホタメットだ。廃棄物のリサイクルを象徴するだけでなく、貝殻のような美しいリブが強度を向上させ、樹脂量の削減やヘルメットの軽量化につながり、さらに地域に新たな地場産業を生み出している。丈夫な貝殻の形で、貝殻を使った丈夫なヘルメットを作る。そんなシンプルなコンセプトで、安全性・循環性・地域性などを同時に満たした発想が、実に見事だ。
(太刀川 英輔)

素材の特性と造形が響き合い生まれた、強く美しい製品である。ホタテの英名’scallop’が、頭蓋骨の’skull’の語源という云われがあるらしいが、ヘルメットとして誰もがイメージしやすく審査の中で高い共感を得た。ホタテの未利用貝殻部分を活用した製品は過去にも見られたが、HOTAMETの優れた点はこの水産系廃棄物を大量に活用し、再生するプランも合わせて設計している点だ。今、こうした時代の中で、モノの在り方について人が願う理想形の一つであり、難度が高い課題に果敢に挑戦している姿から次世代が影響を受けることは大きく、グランプリに相応しいプロジェクトであると感じられた。
(秋山 かおり)

ACC ゴールド

作品名
MY JAPAN RAILWAY
作品概要

鉄道開業150 年に実施した、JR6社による合同キャンペーン。
全国の駅で、その地域の顔となるスタンプを制作。WEBアプリで取得できるようにした。
それぞれの駅の歴史や文化、ユーザー個人のエピソードなどをリサーチしてスタンプをデザイン。
アプリ内にとどまらず、ブックなどのグッズやポスターとしても展開。

審査評

TRAIN TRIPはユーザーを軸としJR各社を横串にするプラットフォームである。駅スタンプを集めるインターフェイス、その駅の特性を表現するスタンプのデザインやその押し心地まで体験として徹底してつくっていることに評価が集まった。また、スタンプをデザインした人たちがこのプロジェクトに愛情をもって取り組まないと続かない規模感でもあるのでその制作した人たちの底力と細やかな視点がプロジェクトの身体になっているのだろう。これから全国にもっと拡がっていくとも聞いているので今後も楽しみにしています。
(原田 祐馬)

電車にのって知らない土地に行く。電車にのるワクワクする気持ち。そういった電車の持つ根源的な魅力が、非常に高いクリエイティビティをもって社会に提示されている。昨今の観光は、決められた名観光地を巡るように、目的地化されていることが多い。そんな中で、日本中に溢れている、「こぼれ落ちてしまった土地の魅力」に改めて光を当てる取り組みにもなっている。また、個々のスタンプのグラフィックデザインも丁寧に作られていて素晴らしい。JRグループが団結した本取り組みは、日本は一つなんだと改めて勇気づけられるプロジェクトである。
(山崎 晴太郎)

ACC シルバー

作品名
ROUTINE RECORDS
作品概要

「ROUTINE RECORDS(ルーティンレコーズ)」は、知的障害のある⼈が過ごす⽇常で繰り返される「⾳」に着⽬し、社会へ届ける実験的な⾳楽レーベルです。

その第⼀弾となる展⽰( 「lab.5 ROUTINE RECORDS」 2022年10⽉1⽇〜2023年3⽉21⽇)を⾦沢21世紀美術館のデザインギャラリーで発表しました。⾦沢市内の特別⽀援学校や全国各地の福祉施設と連携し、彼ら彼⼥らの⾏動習慣(ルーティン)にまつわるさまざまな⾳をサンプリング。来場者はレコードをモチーフにデザインされた個々のルーティン⾳の視聴をはじめ、それらの⾳をリミックスして⾃ら⾳楽を⽣み出すDJ体験や、⾳楽プロデューサーのKan Sano⽒が制作した楽曲およびミュージックビデオの鑑賞体験を通して、普段触れることの少ない知的障害のある⼈とわたしたちの垣根なき⽇常を繋ぎます。本プロジェクトを⽪切りに、彼らの異彩を世界に放ち、⼈々の知的障害に対する認知に前向きな変化を起こし、福祉を起点とした新たな⽂化の創出を⽬指します。

審査評

障がいのある方の活動現場へ行くと、何気ない心地よさと多くの魅力がある。言葉にできないその魅力をどのようにして表していけばいいか?さまざまな認知特性をもつひとりひとりが奏でる音とリズムを映像ではなく音楽というものであらわすことで、事実や数式ではなく人々の想像にその解釈を委ねる他自然ではなく引き算のデザインで障害福祉の分野においてはとても斬新で革新的なコミュニケーションデザインの一つだと思います。
(ライラ・カセム)

ACC シルバー

作品名
世の中を良くする不快のデザイン展
作品概要

「世の中を良くする不快のデザイン展」は、“不快”を効果的に使うことで“世の中を良くするデザイン”になっているコト・モノを、⼼理効果から紐解き展⽰する企画展です。東京の丸の内にある「GOOD DESIGN Marunouchi」にて、公益財団法⼈⽇本デザイン振興会が主催する「GOOD DESIGN Marunouchi 第2回企画展公募選出企画」として2023年3⽉24⽇~4⽉23⽇まで開催されました。

⼀般的に良い印象を持つデザインは、「使いやすく、わかりやすいこと」「⾒た⽬が美しく、洗練されているもの」「誰しもが⼼地よく感じるもの」といった側⾯が強く、“快”を求める傾向にあります。⼀⽅、“不快”なものは排除されがちで、不要なものとして捉えられています。ですが、世の中を⾒渡すと、“不快”という視点に着⽬し、世の中を良くするデザインへと昇華させたコト・モノが数多く存在します。私たちの暮らしの中で⼼理効果を上⼿く使い、“不快”の側⾯からアプローチした、⾝近なモノからちょっとおもしろいコトまで、さまざまなデザインの事例を紹介したデザイン展を⾏いました。

●展⽰事例(⼀部)
・不快で危険を伝える「緊急地震速報チャイム⾳」
・不快と快で学習する「トレーニングパンツ」
・不快で記憶⼒を⾼めるフォント「Sans Forgetica」
・⾯倒で価値を⾼める「ホットケーキミックス」
・不快で効果的に⾒せる「エナジードリンク」など計14点を展⽰解説

審査評

良いデザインとは何かを考えてもらうために、敢えて「不快なデザイン」ということをテーマに据える、という視点に対して非常に高評価を得た作品でした。難しいテーマにも関わらず、きちんと動員もできていて、個人的には展示空間のデザイン自体にもう少し創意工夫があれば、グランプリでもよかったのでは?と思えるような鮮やかな企画だなと感じました。
(川村 真司)

ACC シルバー

作品名
渋谷区公式サイト | 渋谷区ポータル
作品概要

オンライン行政手続きの拡充をはじめ様々なDXを推進することで、日本の自治体DXを牽引する渋谷区。
自治体のサービス利用者は、年齢・居住域(国内外)・言語・性別・心身の状況など多様であり、目的・シーンも様々。
全てのお客様が、快適で不自由なく利用できる自治体サービスを実現するため、お客様にとって最初の窓口となるオウンドメディアのあるべき姿を見定め、それを実現するUI・機能設計・実装を目指した。

審査評

中央、地方自治体問わず日本の行政機関のDX化の遅れは大きな課題の一つですが、渋谷区公式サイトはその遅れを補完するだけでなく、ユニバーサルデザイン化/多言語化など日本を代表する都市「東京・渋谷」のイメージにふさわしい基本機能を備え、現段階における理想的な行政ポータルサイトの像を示している。他行政区での同じようなアクション、実現を早急に願いたい。
(ムラカミ カイエ)

ACC ブロンズ

作品名
こどもの視展
作品概要

⾚ちゃんの頭になってみたら?⽜乳を持ってみたら?ランドセルはどれほど重い?こどもになって世界を⾒る体験型展⽰『こどもの視展』は、ユニークな6つの“こども体験”を展⽰。⾚ちゃんの頭は⼤⼈に換算すると⼤きさが約45cmにもなることを可視化した“ベイビーヘッド”、話した声が全て泣き声に変換される “ベイビーボイス” 、⼤⼈から怒られる怖さをVRで体験する“4mの⼤⼈たち”など、こどもになってみる体験を通して、こどもへの理解を深め、こどもとのコミュニケーションについて考えるきっかけを⼤⼈たちに提供。監修を担当した6⼈の専⾨家たちからの⼦育てアドバイスも併せて公開しました。

審査評

ちょっと不気味な幼児の被り物が印象的。大人がこどもの視点を獲得し、こどもへの理解を深めるための展覧会だ。アーティストのスプツニ子!の生理マシーンや、体に重りを装着させる妊婦体験など、男性が女性の視点を持てるようにというトライアルは知っている方も多いと思うが、大人がこどもを擬似体験するためには、スケールや重さを考慮しないとうまくいかないよ、というところがミソである。実に真面目に取り組んでいながら、アウトプットがきちんとデザインされて、ユーモアと優しさに溢れているところも高く評価した。
(成瀬 友梨)

ACC ブロンズ

作品名
やさしい切りかた辞典
作品概要

年間約246万トンにも及ぶ、家庭での⾷品ロス。
その原因のひとつが、「野菜の過剰除去」
そこで、⾷べられる部分を捨てずにムダなく切ることのできる切りかたを、料理研究家や専⾨家と開発しました。
様々な野菜の切りかたを直感的に・わかりやすく紹介したwebサイトです。

審査評

長年、包丁づくりに取り組んできた貝印が近年の社会問題である食品ロスを考えたときに、「野菜をムダなく切る方法を紹介しよう」という発想がうまれたことに、ナチュラルな無理のないアプローチの魅力を感じた。社会問題をテーマにした作品が多い中で、これは特に「その企業らしい」企画だったと思う。WebサイトのグラフィックやUIデザインも素晴らしく、野菜のカット方法を見ること自体が楽しい体験になっている。ひとつひとつは簡単な知識だが、いちど見るだけでも人の記憶には刻まれる。小さな積み重ねが、社会を少しずつ変えていく。
(小玉 文)

ACC ブロンズ

作品名
ティロリミックス
作品概要

「ティロリ⾳」を⾳楽コンテンツに昇華させ、Z世代を熱狂させた。まず、若者に⼈気の曲とアラーム⾳をマッシュアップしたMVを公開し、TikTokで⾳楽ゲームとしても展開。さらに、アラーム⾳を史上初の公式無料サンプルとして公開したところ、さまざまな派⽣作品がシェアされ、SNSムーブメントを巻き起こした。

審査評

マックポテトが一つの文化へと昇華された瞬間を見届けることができたように感じます。効果音はマクドナルドの象徴として、誰もが認識できる形で巧妙に組み込まれ、マッシュアップ楽曲に深みを与えています。加え、日本の感性を色濃く残すクレイアニメ風の映像、郷愁を誘うゲーム、多様なオーディエンスを魅了する要素が組み合わさることで、様々な人々を引き込む絶妙な試みが随所に散りばめられています。何より、多くの人々のクリエイティビティを喚起し、個々が自分らしい方法で楽しさを見出し、喜びが拡散する様子が、デザインが持つ広大な可能性を体現している作品と感じました。
(武部 貴則)