デザイン部門審査評

総務大臣賞/ACCグランプリ

作品名
進化し続けるAI医療機器nodoca(ノドカ)
作品概要

nodoca®は、AI技術を活⽤したインフルエンザ検査用医療機器です。世界でもまれに⾒る50万枚以上の咽頭画像データベースを基に開発され、専⽤カメラでの撮影を通じて判定を⾏います。痛みが少なく、判定時間も短く、医療現場の効率化と共に患者/医療者両⽅の体験を変⾰します。2022年12⽉より保険適⽤されており、全国の約1200医院をカバーしています。

審査評

医師の方が創業したNodoca。医療やヘルスケアの現場では、広義のデザインの力によって、あらゆる局面で大きな変革が理想を生み出しうるものだと感じる方は多いと思う。実際、AI診断のようなモダリティは、医療の仕組みをリ・デザインしうる重要な構成技術であることは自明ながらも、まだ現場に完全に実装されているとは言い難い。この理由は、命が関わるものであるが故に、エラーと安全への要求性が極めて高いため、大規模な検証によって技術保証を求められるためである。

Nodocaは、医師の端くれでもある私から見ても、非常に厳しい臨床での評価をきちんと超えたうえで、インフルエンザ診断という領域で製品化を実現したものであり、その道程には多くの困難に立ち向かう必要があったものと想像する。インフルエンザに限らず、AI機器による医療のフレームワークを再定義するという大きな目標に向け、確かな一歩になるものと思う。今後の医療に新たなデザインをもたらしうる確かなテクノロジーが、世に広がってほしいという審査委員、ひいては、生活者のみなさんの願いとともに、このグランプリを送りたい。
(武部 貴則)

ACC ゴールド

作品名
座ってイイッスPROJECT
作品概要

レジスタッフ専⽤イスを開発&全国導⼊

「⽴ちっぱなし問題」解決のために最適化されたチェアを開発。
アルバイト情報サイト「マイナビバイト」が掲載企業を巻き込み、各地に「座れるアルバイト」を⽣み出した。
問題を世の中に提起しながら、SNSやニュースでの議論をつくった。

審査評

このプロジェクトが大好きだ。メッセージを投げて終わりではなく、シンプルな方法で実際に課題解決までしていること。マイナビバイトの繋がりで企業に呼びかけ、150社以上の問い合わせがあり、導入企業も広がっていること。働く人のQOLが上がれば、企業側も嬉しいし、結果的にマイナビバイトのPRにもつながる。三方よしの企画である。
さらに参画企業以外に対しても、「立ちっぱなし」の職場環境を見直すきっかけにもなる。この椅子のおかげで、未来の店員さんたちは、座って働ける人がもっと増えるかもしれない。最高の企画である。
(佐藤 ねじ)

ACC ゴールド

作品名
老いパーク
作品概要

老いパークは、誰もが「老い」を疑似体験できる展示。公園をモチーフとしたカラフルで開放感のある空間の中に、目・耳・運動器・脳の老化を体験するゲーム型コンテンツの他、老化メカニズムの解説やその対処法、老化に対処する最新技術や研究の紹介、高齢者への「将来やりたいこと」インタビューなど多様な展示手法を用いている。生きていれば誰にでも訪れるが、普段は考える機会も少なく、ネガティブなイメージもある「老い」に、楽しみながら向き合える展示となっている。

審査評

人間が誰もが直面する「老化」について、若者が真正面から向き合える体験を生み出しているテーマパークです。身体が老いてしまうことは誰にとっても嬉しいことではなく、目を背けてしまいたくなることです。様々な楽しくかつリアリティのある複数の体験デザイン型装置が、「老いる」ことに対して、自らが恐れず、また、老人への配慮を生み出すような、社会における当事者意識を若者に生み出していることが社会への意味のあるメッセージを発信している取り組みでした。
(黒田 英邦)

ACC シルバー

作品名
不二家
作品概要

100年以上の歴史を持つ、不二家洋菓子店のリブランディングキャンペーン。
シンボルマークのFマーク、ロゴタイプ、キャラクター「ペコちゃん」など、既存の様々なアイデンティティを見直して体系化し、さらに象徴である「ペコちゃん」の口を記号化したⅥを新たに作成した。

審査評

世代を越えて愛されてきた不二家。今回のヴィジュアルアイデンティティのリニューアルによって、懐かしさの中にある大切なものをデザイナーが汲み取り直すことで、もう一度、歴史を置き去りにしない愛着を育み直すブランドの顔が生まれている。また、ショッパーひとつで多くの人が不二家だとわかる謎解きのような最小限の提案が実現されており、クライアントとデザイナーの信頼関係が垣間見える。この関係の良さがユーザーへブランドの価値観を具体かつ抽象化させるデザイナーの力量を届けるのだろうと審査委員一同、感心し、評価が集まった。
(原田 祐馬)

ACC シルバー

作品名
生活実験型住宅&地域拠点
作品概要

「プロトタイプする暮らし」
活気を失いつつある品川区戸越の商店街。そこに建つ築33年の社員寮を「プロ未満の何かを発信したい人」に向けた賃貸集合住宅へ転換。
低層部にチャレンジのための設備が整った8種のスタジオを設け、街に開くことで、「住みながら、いつかやりたかったことを試す」生活体験を提供する。
スタジオを起点とした住人のチャレンジが連鎖し、街に賑わいや学びのシーンを育むことを狙い、住人の自己実現と地域活性化を両立する「集合住宅の未来像」をデザイン。

審査評

子どもから大人まで、だれもが一生学びつづける。自らを時に脱皮させ続けるために「暮らし」という環境をもし「道具」にできたら、そんな発想がTHE CAMPUS FLATSの各所に宿っている。スタジオ、ダンスステージ、BARカウンターにオープンキッチン、施術室まで、やりたいことを叶えるための機能が揃い、地域の人々と居住者が主体的に企画し、内と外が緩やかにつながり刺激しあえる設計。KOKUYOの根本にある、人々の成長を支え、自律協働社会へと導くという理念と、有形・無形の資産を活かした立体的な成長の場に着目した構想が新しい。今後の水平展開にも期待したい。
(戸村 朝子)

ACC シルバー

作品名
ハグドラム
作品概要

誰もが一緒に演奏できるインクルーシブな打楽器「ハグドラム」。聴覚に障がいのある方の「音楽を楽しみたい」という声を元に、リードユーザーやミュージシャンの協力を得て、音を光と振動で表現する楽器のデザインに挑みました。

審査評

さまざまな理由で、楽器を演奏することに縁がなかった人たちがセッションに参加できる機会、笑顔になれる機会を、デザインとテクノロジーの力でつくりだすっていうのは素敵だなと素直に思いました。

実際に試すことができていないのですが、きっと聴覚に障害がある方でも、正解のリズムを刻むことを目指すのではなく、自分ならではの気持ちのアガるリズムを自由に刻めるデザイン、一緒に演奏する人たちに自分をアピールできるデザインになっているんだろうな、と想像できたことが評価したポイントでした。
(朴 正義)

ACC ブロンズ

作品名
映画「PERFECT DAYS」公式ウェブサイト
作品概要

第76回カンヌ国際映画祭で役所広司が最優秀男優賞を受賞し、アメリカのアカデミー賞にもノミネートされ話題となっているヴィム・ヴェンダース監督の映画 PERFECT DAYSの公式サイト。

映画とは別のアプローチで、映画がやりたかったことに近づく。
WEBにしかできないことは何かを模索した。
その結果としてこの「スクロールブック」が生まれた。

映画が描いた12日以外の、映画にならなかった 353日を描いた小説をweb用に書き下ろし、映画を観る前にも、観た後にも楽しめるものになっている。

スマホなら指で、PCならマウスで、文字をスクロールすると不思議な動きが生まれ、
言葉にあわせて音が生まれ、そして現実をいつのまにかのりこえてもうひとつの世界に入っていく。
視覚・聴覚・触覚のすべてを刺激する、 WEBでしか得られない体験。

圧倒的な没入感のなかで、日々に生まれる変化を感じる。
小さな揺らぎの集積が、大きく心を揺さぶり、言葉にならない感情が生まれる。

審査評

今年のデザイン部門では、これまで以上にプロセスや社会的インパクトといったことを含めたプロジェクトの総体が評価された受賞作が多かったように感じます。そんな中この作品は、シンプルにデジタルの素晴らしいクラフトと、巧みなストーリーテリングを融合させたコンテンツとしての強さで受賞した数少ない作品でした。本編の映画の世界を補完しつつも、単独でも成立するくらい独自の美しさを持ち、詩情を感じさせる秀逸なデジタル・デザインだと思いました。個人的には、長大なプロジェクトだけでなく、こういったコンテンツにもスポットライトを当てていけるようなデザイン部門でいられたらよいなぁと感じさせてくれた作品です。
(川村 真司)

ACC ブロンズ

作品名
DOWN-LESS DOWN JACKET
作品概要

“光を熱に変える空洞なダウンジャケット”

SOLAMENTは、太陽光などに含まれる「近⾚外線」を吸収し熱に変換する素材テクノロジー。

このダウンジャケットは、SOLAMENTを服の⽣地に使⽤。
空洞で⽻⽑を⼀切使⽤しないのに、光にあたるだけで即発熱。
通常のダウンジャケットよりも暖かくなります。
なお素材は全て、農業⽤ネットや梱包材などの廃棄素材を使⽤。

私たちが提案したいのは、ただの実験的な服のデザインではなく、「少ない資源で機能性の⾼い服を⽣産する」という、新しい服づくりの在り⽅なのです。

審査評

住友金属鉱山のSOLAMENT®を使用した「DOWN-LESS DOWN JACKET」。このキャンペーンは、近赤外線吸収ナノ微粒子を用いた革新的な素材技術「SOLAMENT」の特性を、羽毛を使用せずに暖かさを実現するダウンレスジャケットとして提案。津村耕佑氏とのコラボレーションから生み出された機能と美しさを兼ね備えた製品による明快なビジュアル表現で、見る人々の感性に強く訴えかけることに成功している。また、動物愛護や環境保護に寄与しつつ、新しいファッションの可能性を示している点も高く評価した。
(ムラカミ カイエ)

ACC ブロンズ

作品名
IKOU 自由で自分たちらしい外出を、すべての子どもと親たちに
作品概要

「IKOU(イコウ)ポータブルチェア」は、家の中でも外出先でも利⽤できる折りたたみ式キッズチェア。⾝体障害児と家族のニーズを起点に、体幹が弱く姿勢が不安定な乳幼児も安定して座れる仕様を追求し、障害児も健常児も「ともに使えるプロダクト」を実現。
⼦どもを持つ家族の多彩な外出機会を創出することで、⼈々の交流を促すと同時に多様性を可視化する。

審査評

幼児椅子でも実は多様な身体のユーザーがいます。その中に対象年齢を過ぎても年層にあわないデザインの幼児椅子を余儀なく使っている姿勢を保てない障害児もたくさんいます。障害児用品によく見る医療的なイメージとは正反対シンプルかつスタイリッシュで温かみのあるデザインはいい意味で年層を感じさせず、見た目のスティグマも軽減します。また安全面や持ち運び、幅広い重量性などの機能性にも優れていて、ケアする側のニーズも取り入れており、ユーザーの使用時・外出時のストレスを軽減しています。自然とインクルーシブなデザインプロセスを取り入れ多様な人々の交流の機会をメインストリームの製品という観点から作り出している点が本当の意味でのインクルーシブの実践だと思いますし、高く称賛します。次の展開も楽しみです。
(ライラ・カセム)

ACC ブロンズ

作品名
KATARU HOTARU | 語蛍
作品概要

「KATARU HOTARU(語蛍)」は、ホタルが訪れた年にだけつくられるお酒です。
ラベルには、取⽔地である三重県宮川でその年はじめて蛍が観察された⽇が押され、仕込み⽔の品質が⾼く保たれていることを証明しています。
2024年分に⾄っては、2023年6⽉7⽇にホタルの出現が確認できたため、製造・販売を決定。
売上の⼀部は宮川の保全活動へ。
この⼟地の味と⾵景を後世へ語り継ぐお酒です。

審査評

長い年月や歴史を必要とすることの多いお酒のブランディングにおいて、この「KATARU HOTARU」は、そうではない新しい文脈づくりにチャレンジした事例として、評価する声があがった。ホタルが訪れる川の水を利用しているという事実を着眼点に持ってくる巧みさは、その巧みさゆえに、お酒の美味しさとの関連性にもう少し言及してほしいという声があがるなど、議論の中で意見が割れた面もあったが、お酒のブランドづくりに必要であろう神秘的で浪漫を感じる視点の美しさやアートディレクションの強さが際立っていた。
(鈴木 雅子)