INTERVIEW Design

新しいカルチャーをつくる
デザイン賞へ

デザイン部門 審査委員長 永井一史氏

今年、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS デザイン部門がブランデッド・コミュニケーション部門から独立しました。
審査委員長である永井一史氏が、デザインを審査するということ、そして新しくデザイン賞を立ち上げることの意味について話しました。

正解のないキャリアのなかで

いま、世の中の多くのデザイナーたちは色々と迷っているのではないでしょうか。会社に勤めている人も、フリーランスの人も、自分達のこれからを試行錯誤しながら探っているように思います。それはデザインそのものが変化しているからに他なりません。

例えば、広告会社のデザイナーの場合、以前はわかりやすいキャリアパスのようなものがありました。また表現の領域も、シンプルでした。駅貼りのポスターや新聞広告、雑誌広告、CMなど、決まった枠組みのなかでいい仕事をすれば良かった。

でも今の時代は、そんな単純ではない。例えば、データマーケティングの部署にも、新規事業開発の部署にもデザイナーはいます。デザイナーが何を行う人なのか、一言では説明できなくなっています。
決められたことを、どう上手くやるかではなく、まだ、名前もついていない、カテゴライズされていないような新しい領域を生み出していく必要があるということです。言わばデザインの仕事自体をデザインしていく時代なのです。

広告からクリエイティビティへ

「カンヌ国際広告祭」が、「広告」という単語を外したのも、ACCにおいてCMという言葉を外したのも、クリエティビティのあり方や役割が広がった状況を反映してということでは同じことでしょう。固定された場所でのクリエイティブから遍在するクリエイティビティへの変化です。

「ブランデッド・コミュニケーション」というカテゴリーが立ち上がったのも、手段や方法でカテゴリーを分けずらなくなったものが増えてきた状況を反映してのことだと思います。

ブランデッドは、今までのACCがメディア別に縦で切っていたものを、横で切る試みですが、同時にブランドと言う概念でコミュニケーションの上流工程まで入ってくるところが面白い。そもそもデザイン部門がブランデッドから生まれたことは大切にすべきポイントだと思っています。

アップデートするデザイン

近代デザインが産業革命に対するカウンターとして誕生したのは、示唆に富んでいると思うんです。
デザインは“突き進んでいく文明” と “人”との間に立って、常にオルタナティブを示してきました。

アーツアンドクラフツ運動に始まり、近代化においては工業製品に暮らしに合うようなカタチを与え、近年では、SDGsに代表される社会課題に対してのソーシャルデザインや、コミュニティデザイン、体験デザインなど、デザインはその領域を広げてきました。

つまり、社会が要求する課題に対して、デザインという哲学や方法論がどのように貢献できるかという積み重ねが、デザインの歴史なのです。

直近で言えば、もちろん新型コロナウイルスも大きな課題の一つでしょう。これからは、ものやことに限らず、その背後にある仕組みなども、デザインが貢献できる領域になっていくと思います。

新しい部門はどこを目指すか

今回のデザイン部門ですが、デザインはブランデッド以上に大きな概念であるということを反映させたいと思っています。今までのACCの枠組みの中では、評価できなかったようなものも、エントリーしてもらいたい。もちろんブランディングから、プロダクトもあれば、サービスもある。そんなカテゴリーになると面白い。

そこで考えているのは、求心力と遠心力です。求心力は、デザインの本質を大切にするということです。デザインは人のためにあると言いましたが、表層を評価するのではなく、その背景や何を目的にしているかも大切にしたい。

もう一つは、遠心力です。デザイナーの仕事が今大きく変化しているのは、冒頭でお話しした通りです。その進化のフロンティアを捉えていきたい。新しい賞ができる社会的な意味は、他の賞の評価と同じ基準にしないということだと思います。

他では、価値を認められなかったものが、ここでは評価される。そんな賞にしていきたい。そのためには、先入観を持たずにデザインを見て、その新しさを読み解いていくことが大切です。

これからのデザインを考える場所

審査する側にも多様な視点が重要です。今回、コミュニケーションの専門だけでなく、プロダクト、インタラクティブ、フード、アート、ビジネスなど、幅広い領域の方々に審査委員をお願いしました。この賞を成功させるには、まず審査委員自身が、作品を前にドキドキして妥協のない議論をしていくことが重要だと思っています。

今回、お願いした審査委員の方々は、評価と同時に、「これからのデザインってなんだろう」を、一緒に議論していきたいメンバーでもあります。変化していく「デザイン」を、考える場所にしていきたい。そこでの議論も発信していければと考えていますし、ここからデザインの新しい見立てやカルチャーを生み出せるようになれればと思っています。

贈賞の場としてだけでなく、エントリーする人、審査する人、それを見守る人も、デザインのことを一緒に考えていく場にしていくのが、この新しい賞ができる大きな意味だと思っています。

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