多田審査委員長 審査講評
審査をするにあたって、自分の役割として最も重要なのは審査委員の選定であろう。ほぼこれが全てとも言える。アイディア溢れる表現を真摯に追求していることを基準に、特に今年は現場に近い若いディレクターに多く参加してもらった。さらに1年ごとに審査委員の顔ぶれを新しくする。様々なクリエイターによって、より多くの異なる視点を審査に吹き込んでもらいたいという思いからである。
まずファイナリストは例年よりかなり多くした。「落とすべきでないもの」をできる限り残すことが目的である。新しい何かがそこにあるかもしれない、という可能性を救うために。グランプリ選考については、今年は上位20本くらいに絞られたタイミングで「グランプリを先に決める」という方法をとってみた。審査委員それぞれが「これが今年のグランプリである」という1本を明確にして欲しいと思ったからである。その上で時間をかけて議論することにした。
Bカテゴリーは圧倒的な差で選出された。10秒のシリーズはむしろテレビCM向きではないかという見方もあったが、僕はそうは思わない。Web CMはデータ上、興味を感じなければ6秒程で離脱する傾向にあるという。逆に捉えれば頭の6秒で引き込まれれば、長くても見続けてしまうということでもある。それを利用してパンチのある10秒動画の連打というのはWeb CMの弱点を逆手に取った見事なアイディアであると賞賛したい。
Aカテゴリーのグランプリ審査は紛糾した。長時間議論した上でも票は真っ2つに割れた。「ACCのグランプリは数が増えて、どれが一番なのかよくわからない」と言っていた自分が、グランプリを2つ出すことに後悔がないかと言われれば嘘になる。しかし、テクノロジーが進化し、新しいフォーマットが増え、データ分析が当たり前となり、刺激的なことに不寛容な世の中でCMをヒットさせるという難しいミッションを解決するには、アイディアこそ最良の方法であるということを示すためにも、2本をグランプリとすることに決めた。
今思うと、山内ケンジ監督と関西堀井組のDNAの受賞だったのではないか、と思う。CM界の宝である2つ潮流が、依然として世の中にワークするということは、ここにCMの本質があるということなのかもしれない。
審査を終えたら心地よい満足感があるものかと思っていたが、審査委員長としての能力の低さには後悔しかない。ただ、審査委員全員が長時間、広告の未来のために本気で審査してくれた。その熱意には心を打たれた。